立入検査を受けたらどうするべきか

社会常識としての独占禁止法㉝
執筆:弁護士  多田 幸生

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は「公正取引委員会から立入検査や事情聴取を受けた場合の危機管理」を取り上げます。



 会社が、独禁法違反の嫌疑により、公正取引委員会かによる立入検査や事情聴取を受けたとします。
 社内で調査した結果、会社としても、「その嫌疑はある程度確かだ」と思うに至ったとします。
 このとき、会社はどのように対応するべきでしょうか。
 対応にはいくつかの種類があります。



①リニエンシー(自主申告)する

最も深刻なケースの対処法です。 談合やカルテルなど、多額の課徴金を課される可能性がある場合には、課徴金の減免を念頭に、リニエンシー(自主申告)を検討しなければなりません。

参考:課徴金額の計算方法

 リニエンシーする場合、公取委の定める報告書(様式1・2)を作成して違反行為を自主申告するとともに、調査への協力を表明して、課徴金の減額を申請することになります。
 「至急対応」が必要です。
 なぜならリニエンシーは先着順であり、順位により課徴金の減免率が異なるからです。
 ただし近時はリニエンシーの「内容」も重視されるので、スピードと内容のバランス感覚が問われます。 リニエンシーしたかどうかは、重い刑事罰を科せられるかどうかとも密接に関係します。
 例えば、公正取引委員会は、調査開始前に最初にリニエンシーした者については刑事告訴をしない方針を明らかにしています。


②確約手続申請をする

 「確約手続」とは、比較的軽微な独禁法違反の嫌疑に対し、会社が自発的に改善計画を策定して改善を「確約」し、その見返りとして、公正取引委員会から排除措置命令や課徴金納付命令の免除を受ける手続です。
 平成30年12月30日に制度がスタートし、すでに複数の適用例が報告されています。
  簡単に言えば、「比較的軽い独禁法違反についての司法取引」です。

 公取委は、立入検査や事情聴取等のあと、会社に対し、「嫌疑の概要、適用法令等」を通知することがあります。
 この通知は、独禁法違反の認定ではありません。しかし、公取委が嫌疑について「ある程度確かだ」と思っている証左ではあります。
 このことを念頭に置き、会社は、確約手続を申請するか、それとも争うかを検討しなければなりません。

 確約手続申請を行う場合、会社は、公取委の通知から60日以内に、自主的な改善計画(確約計画)を策定し、公正取引委員会に対し、確約手続申請をすることになります。
 リニエンシーほど急ぎではありませんが、余裕のあるスケジュールではありません。

③自主的に改善する

 ①②と比べ、圧倒的に多いのは、③自主的に改善する場合でしょう。
  少し記憶をたどっただけでも、

  • 「取引拒絶の嫌疑を受け、日本プロ野球機構が『田沢ルール』を撤廃した件」
  • 「優越的地位濫用の嫌疑を受け、楽天市場が送料に関する新制度を緩和した件」
  • 「排他条件付き取引の嫌疑を受け、葬儀仲介サイトが競合サイトを排除する制度を廃止した件」

など、類挙にいとまがありません。

 自主的な改善は、②の確約手続申請より早い段階で行うことになります。
 具体的には、公取委から「嫌疑の概要、適用法令等」の通知を受ける前に行うことになります。
 たとえ公取委からの通知がまだない段階でも、社内調査により嫌疑がある程度確からしいと判明したのであれば、自主的な改善を検討するべきでしょう。

 (先例によれば、「立入検査」から「通知」までは1年以上かかることもあるようです。それほど長期間、嫌疑を放置することは、それ自体望ましいことではありません。)

 公取委と協議した上で、自主的改善を行います。嫌疑の前提事実がなくなったと公取委が判断すれば、公取委の調査(審査)は終了となります。その場合、何の判断も下されません。

 公取委に「独禁法違反」と判断されるリスクを回避できるメリットは、計り知れないものがあります。

以上

 

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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