「確約手続」~軽微な独禁法違反に関する司法取引

社会常識としての独占禁止法⑰
執筆:弁護士  多田幸生

このコラムでは、ビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は確約手続についてお話しします。

「確約手続」とは、比較的軽微な独禁法違反の嫌疑に対し、会社が自発的に改善計画を策定して改善を「確約」し、その見返りとして、公正取引委員会から排除措置命令や課徴金納付命令の免除を受ける手続です。
平成30年12月30日に制度がスタートし、すでに複数の適用例が報告されています。

簡単に言えば、「比較的軽い独禁法違反についての司法取引」です。
 (なぜ「確約手続」などというわかりにくい名前を付けるのでしょうね?)

確約手続の最大のメリットは、公正取引委員会による「独禁法違反」との判断を回避できる点です。
公取委から独禁法違反と認定されてしまった場合、風評被害などによる企業価値の毀損や事業上の不利益を免れません。自主申告により、公取委の判断を回避することができれば、それらの不利益を低減することができます。

「排除措置命令」や「課徴金納付命令」を受けずにすむ点も、重要です。
公取委から排除措置命令を受けてしまうと、それに対応するために多大な金銭的・人的コストが発生します。自主的に改善計画を策定することが許されれば、それらのコストを低減することができます。総じて、事件の早期解決にも資すると言われています。
課徴金納付命令については、課徴金の金額は時に巨額(億単位)となることもありますから、これを回避することによる直接的な経済的メリットも無視できません。

▶確約手続の流れは、次のようなものです。

<確約手続の流れ>
①公正取引委員会調査開始(立ち入り検査など)
  ↓
②公正取引委員から会社に対し、嫌疑の概要、適用法令等を通知
  ↓
③会社は自主的な改善計画(確約計画)を策定し、公正取引委員会に対し、確約手続申請
 (②から60日以内)
  ↓
④公正取引委員会、確約計画を認定し、会社に対する調査を終了。
 (排除措置命令・課徴金納付命令を免除)



▶ スケジュールの目安を記しておきます。

  • ① 調査開始から②嫌疑の概要通知までは、相当の長期にわたります。
    前回ご紹介した押し込み販売事件の実例では、最初の立入検査(令和元年9月)から嫌疑の概要通知(令和2年12月)まで、1年4か月かかりました。
    公正取引委員会による調査期間には長時間を要するということであり、やむを得ません。
     
  • ② 嫌疑の概要通知から③確約手続申請までは、法令上「60日以内」と制限されています。
    会社は、確約手続を利用するかどうかの判断や、改善計画の策定作業のために、長時間をかけることができませんので、注意が必要です。
     
  • ③ 確約手続申請の後は、④確約計画の認定までさほど時間を要しません。
    押し込み販売事件の実例では、1カ月半程度でした。

 今回は、最近導入され利用が始まっている「確約手続」についてご紹介しました。
 今後、比較的軽微な独禁法違反事例については、確約手続の利用による簡易・迅速な事件処理が普及し、独禁法の新たなスタンダードになる可能性があります。
 覚えておいて損のない制度ではないかと思います。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada
会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する
 

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