食べログ判決の続報

社会常識としての独占禁止法58

執筆:弁護士  多田 幸生

  

 いわゆる「食べログ判決」(東京地判令和4年6月16日)については、本コラムでも取り上げましたが、その時点では判決の結論と概要しか公表されていませんでした。
 このたび、判決のほぼ全文が公開されましたので、「続報」として取り上げたいと思います。

1 (復習)食べログ判決とは

 平成31年5月に食べログが点数調整(採点アルゴリズムの変更)を行い、チェーン店に属する飲食店の点数を一律で引き下げたことによって、チェーン店の売り上げが減少し損害を受けたとして、チェーン店側が食べログ側に損害賠償などを求めた訴訟です。

 令和4年6月16日、東京地裁は、食べログが一方的に点数調整(アルゴリズムの変更)を行ったことは、独占禁止法が禁じている「優越的地位の濫用(乱用)」に当たると認定し、食べログ側に対して賠償金3840万円の支払いを命じました。

 この訴訟は、現在も、控訴審(東京高等裁判所)において引き続き係属しています。

2 判決文の公開

 この判決文は長らく非公表とされていましたが、令和5年2月にほぼ全文が公開されました。
 これにより、食べログがどのような点数調整(アルゴリズム変更)を行っていたかが、明らかになりました。


3 チェーン店かどうかの判断基準

判決によると、まず、

①同一屋号かつ同一運営主体であること

②最低2店舗以上が運営されていること

の2点により、チェーン店かどうかが判断されます。

①の要件の該当性については、第一次的には、

運営会社の公式ホームページに関連店舗として掲載されているか否か

により判断されます。

ただし、チェーン店であっても、ファミリーレストランやファーストフード店については、①と②の要件を満たす場合であっても、なぜか、点数調整の対象としない取り扱いとなっていたようです。


4 チェーン店に対しどのような点数調整が行われたか

 判決は、原告が運営していたチェーン店26店舗について、点数調整により、評点が平均0.14点下落したと認定しました。
 中には、3.51から3.06へという極端な下落をした店舗もあったようです。

 判決は、原告以外のチェーン店の評点の下落も認定しています。具体的には、

  • 高級中華店「J」
  • 高級中華店「G」
  • 高級焼肉店「T」
  • 高級焼肉店「J」
  • 高級焼き肉店「H」
  • 高級天ぷら店「T」
  • 著名とんかつ店「M」
  • 著名ラーメン店「I」
  • 著名蒙古タンメン店「N」
  • 著名大福茶屋「A」
  • 著名バームクーヘン店「K

などです。

 誰もが知る有名店や高級店は、同じ店名で複数出店していることが、しばしばあります。
 そういったケースを対象に、評点を下げる点数調整が行われたことがわかります。


5 その他の判決内容

 食べログが平成31年に行った点数調整は、今も活きています。
 東京地裁は、変更後のアルゴリズムはその後変更されることなく適用され続けていると認定しています。
 しかしながら、東京地裁は、この点数調整(アルゴリズム変更)の差し止めまでは、認めませんでした。

 損害の額については、東京地裁は、アルゴリズム変更の前と後とで、食べログのインターネット予約を介して来店する人数が減り、売り上げが減少したことを認定しつつも、新型コロナウイルス感染症のまん延等の影響を加味し、一種の裁量判断により、3840万円と認定しました。

 食べログと飲食店との契約には、食べログの責任を免責する条項(条項)がありましたが、東京地裁は、本件には免責条項は適用されないと判示しました。

 本件の点数調整(アルゴリズム変更)が独禁法の禁止行為「取引条件の差別的取り扱い」に該当するか否かについては、本判決では判示されませんでした。


6 本判決が実務に与える影響

 アルゴリズムの実務においては、一方的なアルゴリズム変更には独禁法(優越的地位の濫用)が適用されうること、訴訟になれば具体的なアルゴリズムを開示せざるを得なくなることを、念頭に置かねばなりません。
 アルゴリズムを変更する際は、利用者に不利益を与えるような変更かどうかを検討しなければなりません。
 そして、不利益が予想される場合には、利用者への周知期間を置くなどの対応が、必要になるでしょう。

 「取引条件の差別的取り扱い」については、東京地裁は判断を避けましたが、私見では、食べログのアルゴリズムが「取引条件の差別的取り扱い」に該当する可能性は、否定できないように思いました。
「チェーン店かそうでないか」という点で差別的な取り扱いをしているのではないかと言う疑問があります。
 また、「チェーン店のなかで、ファーストフード店とファミリーレストランだけ点数調整(下落)をしないのはなぜか」もよくわかりません。
 合理的な理由があるのかもしれませんが、今のところ、理由は明らかにされていません。

 判決は、原告以外のチェーン店の点数下落も認定しています。
 判決文中に実店舗名を挙げられた高級チェーンや著名チェーンについては、同種の訴訟を提起可能ではないかとの印象すら受けました。
 挙げられた以外にも、アルゴリズム変更により点数が下落したチェーン店が多数あるのであれば、今後、社会問題になる可能性もあるでしょう。

 現在、控訴審(東京高等裁判所)に係属中ですので、どのような判決が下されるか、引き続き、目を離すことができません。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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