独禁法違反と入札参加資格の停止

社会常識としての独占禁止法56

執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
   今回は「独禁法違反と入札参加資格の停止」についてお話しします。   

1 五輪談合事件による入札資格停止処分の広がり

五輪汚職事件と五輪談合事件のニュースが世間を騒がせています。
そんな中、国土交通省、外務省、文部科学省、東京都、大阪府、愛知県は、事件の中核を担ったと報じられているD社らに対し、各官庁が実施する入札への参加資格を停止する処分を下しました。



2 どのような場合に入札参加資格を停止されるか

 独禁法違反や汚職(贈賄)には、官公庁の入札参加資格停止というリスクがあることを、肝に念じる必要があります。
 以下、文部科学省の取扱要領を例に取って説明します。

 談合、競売入札妨害、贈賄等を犯した場合には、「契約の相手方として不適当」と認定され、入札参加資格を停止される可能性があります。

 もっとも、談合等を犯したかどうかの認定は、必ずしも容易ではありません。
そこで、実際には、官公庁は、

  • 役員や従業員が逮捕されたこと(取扱要領・別表1~3、8~11)
  • 公訴を提起されたこと(取扱要領・別表1~3、8~11)
  • 公取委から刑事告発されたこと(取扱要領・別表6)

等の事象が発生した場合に、停止処分を下すことが多いようです。

 当該官公庁に対する談合等に限らず、別の官公庁に対する談合等も、入札参加資格を停止する理由になります(取扱要領・別表2、3、5、6、10、11)。
 たとえば、五輪贈賄や五輪談合は東京都に関する事件ですが、関係のない大阪府や愛知県も停止処分を下しています。

3 どれくらいの期間、停止されるか

 入札参加資格停止の期間は、1年間前後であることが多いようです。
 ただし、事件を首謀した会社や、再犯を犯した会社に対しては、停止期間を加重されます(取扱要領第5項)
 今回のD社に対しては、経済産業省と文部科学省及び外務省が「9カ月間」、大阪府が「1年間」、愛知県が「15カ月間」としています。
 (東京都は期間未定)

4 停止処分の影響

 今回の入札停止処分は、省庁はもとより、大阪府や愛知県など事件と関係のない地方自治体にも広まっています。
今後、追随する自治体が増える可能性があります。

 大阪府は、2025年に国際博覧会(大阪・関西万博)を予定しています。
愛知県は、2026年に夏季アジア大会とアジアパラ大会を予定しています。
D社は、入札停止期間が続く間は、それらビッグイベントの入札に参加できません。

ただし、停止処分は、処分前の入札の落札には影響しないとされているようです。
D社は、停止処分を受ける前に落札済みの事業については、引き続き業務を行うことができます。

 停止処分の期間については、今後、例えば「事件を首謀した」と認定された場合などには、期間が加重されることもありえます。

 独禁法違反のリスクは入札停止だけではありませんが、入札停止のリスクだけ採っても、このとおり深刻です。
会社全体で独禁法に関する素養を高め、談合事件等を未然に予防することが肝要です。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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