物流業界と独禁法・下請法

社会常識としての独占禁止法74

 

このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、物流業界に適用される独禁法と下請法についてお話します。

 

1 物流分野に適用される取引のルール

昨今の物流業界は、人手不足や個人向け需要の上昇といった課題に直面し、転換期を迎えています。
 業務の効率化や改革を行う前提として、物流分野に適用される取引のルールを総ざらいしましょう。

物流業界では、荷主の地位が事業者に優越していることが多く、優越的地位の濫用が特に問題になりやすいと言われます。
 そのため、物流取引には、単に独禁法や下請法が適用されるのみならず、公取委が特に定めたルール(いわゆる「物流特殊指定」)が告示されています。

物流特殊指定と下請法の関係(公取委HPより図を引用)

公正取引委員会「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成十六年三月八日公正取引委員会告示第一号)」(いわゆる「物流特殊指定」)


2 物流特殊指定の特徴

 物流特殊指定の特徴は、簡単に言うと、「下請法類似の規制により、下請法より重い制裁を科している」点です。


3 物流特殊指定の規制対象となる取引

 物流特殊指定の対象となる取引は、次のとおりです。

  • 荷主と事業者の間の委託取引が,運送サービス又は倉庫における保管サービスであること。
  • 荷主と物流事業者の資本金額(出資金額)等が下図の関係にあること。
  (公取委HPより図を引用)

 これは、下請法と同様に、「資本金の比較」という単純明解な基準を採用することによって、より多くの運送取引に対し、物流特殊指定を適用できるよう工夫したものです。
 通常の独禁法(優越的地位の濫用等)よりも適用がはるかに容易であり、公取委が物流業界を重視していることが良くわかります。


4 物流特殊指定による禁止行為

 物流特殊指定は、俗に「下請けいじめ」と言われる行為を網羅的に規制しています。この点でも、下請法に類似しています。

  • 支払遅延
    荷主が、約束の支払日に代金を支払わず、遅れて支払うことです。
  • 減額
    荷主が、支払う段階になって、様々な理由をつけて代金を一方的に減額することです。
  • 買いたたき
    荷主が、様々な理由をつけて、運賃や保管料よりも通常より安価に設定することです。
  • 購入・利用強制
    荷主が、物流取引を委託する見返りとして、物流事業者に対し、様々な物品やサービスの購入・利用をさせることです。
  • 割引困難な手形の交付
    荷主が、代金の支払い方法として、サイトが著しく長い手形を用いたり、通常の割引以上に過大な負担を課すことです。
  • 不当な経済上の利益の提供要請
    荷主が、物流取引を委託する見返りとして、物流事業者に対し、荷主の荷降ろし・梱包作業などを無償で手伝わせたり、協賛金やリベート(割戻金)を支払わせたりすることです。
  • 不当な給付内容の変更及びやり直し
    荷主が、運送量を事後的に一方的に増やし、追加運賃についての協議に応じないなど、取引条件を一方的に変更することです。
  • 報復措置
    運送事業者が①~⑦のような不当要求を拒否したり、公取委日通報したことに対し、荷主が取引を停止したり、不利益を課したりすることです。


5 物流特殊指定による制裁

 物流特殊指定は、独禁法による規制の一画です。そのため、物流特殊指定に違反すると、独禁法による制裁を受けます。

 具体的には、排除措置命令、警告、注意などです。

 下請法類似の行為により、独禁法上の制裁を受ける点において、通常の下請法違反よりも制裁が重くなっています。

物流特殊指定事件の流れ(公取委HPより引用)

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

→→プロフィールを見る