公取委への事前相談の勧め

社会常識としての独占禁止法㉞
執筆:弁護士  多田 幸生

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は、独占禁止法や下請法に関する「事前相談制度」についてご紹介します。

<事例>

X社は、電子マネー「A」を運営するとともに、商業ビルを多数保有しています。
X社の経営企画部が、「商業ビルの規約や契約書を改訂し、新規テナントが入居する際に、電子マネーAへの加盟契約を義務付けてはどうか」という企画を立てました。
この企画に対し、法務部から、「テナントから電子マネーの選択の自由を奪うことになり、独占禁止法の『抱き合わせ販売』に当たるのではないか。」との問題提起がありました。
そこで、X社は顧問弁護士に相談しました。
顧問弁護士は、「抱き合わせ販売に当たる可能性がないとは言えない。」と回答しました。
X社は、どのようにすれば良いでしょうか。

※架空の事例です。


1 事前相談制度の有用性

 会社が、新たな商品、サービス等を企画・検討する中で、法律上の問題点が判明することがしばしばあります。

 会社としては、「企画をあきらめる」という選択肢もありますが、「違法の可能性がないとは言えない」という程度で企画をあきらめることは、なかなかできないでしょう。

 企画を遂行したい場合、「顧問弁護士に法律意見書の作成を依頼し、『適法』との意見書を得て、企画を遂行する」という会社も多いでしょう。
 しかし、弁護士の意見と公正取引委員会の意見が、常に同じとは限りません。

 公取委の「事前相談制度」は、そのようなときに是非お勧めしたい制度です。

 事前相談制度(正式名称は「事業者等の活動に係る事前相談制度」)は、公取委が、事業者がこれから行おうとしている具体的な行為について、独禁法と下請法の問題がないかどうかの事前相談に応じ、書面により回答する、という制度です。

 非常に有用な制度で、毎年約2000件もの相談があると言われます。

 特に、自社の経営戦略にかかわるような重要な新商品、サービス等については、実施前に公取委に相談し、白黒はっきりさせてから、堂々と実施するのが良いでしょう。


2 事前相談制度の流れ

※画像は公取委HPより引用

まず、相談者が公取委に事前相談の申出書を提出します。

公取委から申出書の補正指示(事実関係についての質問や、追加資料の提出指示などがあれば、都度補正します。

最後のやり取り(補正完了)から30日以内に、公取委から回答があります。



3 対象となる行為

 注意事項が2つあります。

まず、事前相談制度は、「これから」行う行為についての相談制度です。
 なので、すでに実施してしまった行為についての相談は、できません。

次に、事前相談制度は、「自社の」行為についての相談制度です。
 他社(たとえばライバル企業)の行為について相談したい場合には、「事前相談制度」は使えませんので、個別に公取委に相談をもちかけることになります。


4 回答までの期間

 最後のやりとりから30日以内に、公取委からの回答があります。

 申出書に対し、公取委からの補正指示がなにもなければ、最短で、申出書を提出してから30日後に回答を受けられます。
 実際には、補正指示が何度も繰り返され、長い期間、回答を受けられないこともしばしばあります。
 申出書を提出する前に、弁護士に相談し、必要と思われる証拠資料をそろえ、事実関係を文章に整理してから、事前相談を申し出ることをお勧めします。


5 回答の方法及び公表について

 事前相談を申し出た時点で、事業者は、公取委から、回答内容が公表されることについての同意を求められます。
 しかし、実際には、多くの回答は書面ではなく口頭でなされ、回答内容は公表されません。
 毎年10件程度、特に有意義と思われる事例が厳選され、匿名化処理のうえ、公正取引委員会のHPで公表されているようです。

以上


コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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