違反行為を早期発見するためには

社会常識としての独占禁止法68

執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 前々回前回の2回にわたり、従業員に独禁法違反を犯させないための事前対策(リスクマネジメント)についてお話ししました。 今回は、事前対策が奏功せず、従業員が独禁法違反を犯してしまった場合に、会社がそれを早期発見する方法について、お話します。


1 2種類の発見方法

 違反行為の発見方法には、①社員から独占禁止法違反行為に係る情報を受け付ける方法と、②法務・コンプライアンス担当部署等が自ら情報を探知して独占禁止法違反行為を発見する方法の2つのタイプがあります。
 特に、後者の法務・コンプライアンス担当部署による発見活動に対しては、営業部門の従業員からの抵抗や反発も予想されることから、経営トップが社員に対してその重要性・必要性を明確に伝達し、理解と協力を確保することが求められます。

2 独禁法監査を実施する

平成26年の公取委アンケート調査によれば、監査を実施した企業のうちの約14%において、実際に独占禁止法違反(下請法違反を含む)につながる可能性のある行為が発見されています。
監査を効果的・効率的に実施するためには、たとえば次のような施策が考えられます。

  • 落札率や営業利益率などにより、重点的に監査を行う部門や事案を選別する。
  • 従前から実施している契約書のリーガルチェックや内部審査などに、独禁法コンプライアンスの観点からの審査の項目を追加する。
  • 同業他社との間の電子メール等を調査し、不自然なやり取り(例えば価格についての情報提供)を抽出する(デジタルフォレンジック)。
  • 法務・コンプライアンス担当部署と各事業部門が連携し、各事業部門の営業書類を読み解いて違反行為を発見するための専門性を充実させる。


3 内部通報制度を整備する

 内部通報制度は水面下で生じている問題行為に関する情報を入手する上で重要な手段です。
 社外の第三者窓口の存在など、内部通報制度の具体的な利用方法について、従業員に周知徹底するべきことは、言うまでもありません。
 一番貴重な内部通報は、現に違反行為に関与している者からの内部通報です。
 これを得るためには、内部通報制度と、次項で述べる社内リニエンシー制度を機能的に連結させた制度を整備することが肝要でしょう。


4 社内リニエンシー制度を整備する

 社内リニエンシー制度とは、独禁法のリニエンシー制度の社内版です。
 独禁法違反は、当該営業員が違反行為を開始した場合も勿論ありますが、前任者が開始した違反行為を後任者が承継しただけという場合も少なくありません。
 前任者を承継した後任者は、前任者の独禁法違反(違法性)に薄々気づきつつも、自らが懲戒対象となることを恐れ、法務部門に報告したり内部通報したりすることなく、漫然と違法行為を続行してしまう可能性があります。
 そこで、違反した従業員からの自主申告や内部通報を促進する施策として、社内リニエンシー制度を実施します。
 具体的には、就業規則(懲戒規程)において、独禁法違反が懲戒処分の対象となる旨を定めるとともに、違反行為を自主申告した場合には懲戒処分を減免する旨の条項を規定し、そのことを社内に周知徹底します。
 具体的な条項は、独禁法を参考にしつつ、各社の事情に即した内容とするのが良いでしょう。
 内部通報制度についての社内マニュアルなどにも、違反行為の自主申告については懲戒処分が減免される旨の一文を追加するべきでしょう。
 近年、社内リニエンシー制度を導入する企業は増えていると言われます。直近では、電力カルテル事件(令和5年)のあと、違反各社が社内リニエンシー制度を一斉に導入したことで話題になりました。

以上


コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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