社会常識としての独占禁止法⑫ ~課徴金減免制度の大切さ~

執筆:弁護士  多田 幸生

2020年12月は、課徴金減免制度(リ-ニエンシー制度)の大切さを再確認する事件が相次ぎました。

まず12月9日、独立行政法人「地域医療機能推進機構」発注の医薬品の入札を巡る談合事件で、医薬品大手3社と、3社の執行役員ら7人が、独占禁止法違反(不当な取引制限)罪の嫌疑で、東京地検特捜部から起訴されました。
この件は、上記3社にもう1社を加えた計4社による談合事件だったですが、一番最初に公取委に違反報告を行った1社に課徴金減免制度(リーニエンシー)が適用されたために、3社のみが起訴されました。

日本経済新聞「医薬品卸談合、大手3社と担当者7人を起訴 東京地検」

次いで12月22日、リニア中央新幹線の建設工事を巡る談合事件で、大手ゼネコンのO社に対し31億円、S社に対し12億円の課徴金納付命令が下されました。
この金額は、両社が公取委に対し行った違反報告につき、課徴金減免制度(リーニエンシー)が適用され、30%減額された後の金額です。つまり、本来の課徴金額はO社が44.3億円、S社が30億円であり、課徴金減免制度により、O社は13.3億円、S社は9億円の課徴金減額を受けたことになります。

日本経済新聞「リニア談合、大林・清水に課徴金43億円 公取委」

上に挙げた2件に限らず、課徴金減免制度の適否が結果を大きく左右する事件が増えています。課徴金減免制度の重要性は、今後、増すことはあっても減ることはないでしょう。
企業の法務部は、独禁法違反の予防法務に加え、万が一違反が判明した場合の対応方法についても、知っておくべきでしょう。

例えば、医薬品談合事件では、一番最初に違反報告を行った1社にしか、課徴金減免制度が適用されていません。
この一事からもお分かりいただけるように、報告のスピードは極めて重要です。
公取委の調査開始前に報告しなければいけないわけでは必ずしもありませんが、他社より報告が遅れた場合、適用を受けられないことがあります。

また、12月25日、改正独占禁止法が施行され、課徴金減免の制度内容が大きく変わりました。
報告のスピードだけでなく、報告の質や調査協力の度合いも重視されることになりました。違反報告の方法も変わりました。実務的に重要な改正です。

良い機会ですので、次のコラムで、課徴金減免制度の内容や違反報告の方法などについて、簡単にご説明したいと思います。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

 

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