独禁法違反と企業のリスクの総まとめ
社会常識としての独占禁止法65
このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は、企業は独禁法に違反することによりどのようなリスクを負うのかについて、お話しします。
1 リスクとは何か
「リスク」とは、ある事象が発生する可能性と、それによる影響のことを言います。ビジネスシーンでは、好ましくない事象が起こる可能性を言うことが多いと思われます。
リスク段階で事前対策すれば、リスクが顕在化することを防げます。
そこで、予想されるリスクを洗い出し、事前対策すること、また、仮にリスクが顕在化した場合の損失を可能な限り軽減することこそが、リスクマネジメントの要となります。
2 独禁法違反のリスクは増大している
独禁法違反のリスクは、主に法的リスク(コンプライアンスリスク)です。
近時、課徴金減免制度(リニエンシー制度)や公益通報制度が整備・拡充されています。以前と比べ、独禁法違反が発覚しやすくなっていることは疑いの余地がありません。
独禁法違反の法的リスクは、著しく増大していると言えます。
3 独禁法違反のリスク①:莫大な課徴金を課される
ここからは、独禁法違反の法的リスクを具体的に見ていきましょう。
まずは課徴金です。
課徴金の金額は、増額傾向にあります。
電力カルテル事件(令和5年)の1010円は群を抜いて巨額ですが、それ以外にもリニア談合事件(令和2年・43億円)など、公正取引委員会は、巨額の課徴金納付命令を連発しています。
4 独禁法違反のリスク②:株主(投資家)から損害賠償請求訴訟を起こされる。
独禁法違反の発覚した会社の株価は急落します。
特に、巨額の課徴金納付命令を受けた場合の株価下落は深刻です。
5 独禁法違反のリスク③:株主から株主代表訴訟を起こされる
これは会社にとってのリスクではなく、会社の役員にとってのリスクです。
独禁法違反が発覚した会社では、株主代表訴訟により、役員(取締役、監査役等)である個人が、多額の損害賠償請求を受ける可能性があります。実際、10億円単位の損害賠償を受けた事例もあります。
特に、課徴金納付命令を受けた会社では「役員が迅速にリニエンシー(自主申告)すれば、課徴金を回避できたのではないか」という訴訟を起こされやすいと言えます。
6 独禁法違反のリスク④:刑罰を科される
入札談合やカルテルは犯罪です。
会社には5億円以下の罰金刑が、従業員には5年以下の懲役刑又は500万円以下の罰金刑が、科されます。
特に、独禁法違反を繰り返す事業者の場合、公取委から刑事告訴され、刑罰を科されるリスクが極めて高いと言えます。
7 独禁法違反のリスク⑤:顧客から損害賠償請求を受ける
たとえばカルテル事件では、複数の会社が結託して商品の値段を高額に設定し、値下げを妨害しています。
カルテル事件が発覚した場合、不当に高い商品を買わされていた顧客が、不当に多く支払わされていた代金の返金を求めたいと思うのは自然なことです。
8 独禁法違反のリスク⑥:社会的な非難を受ける
近時、コンプライアンス(法令順守)に対する社会の目は厳しくなっています。独禁法違反は広く報道され、会社は社会的な非難を受けます。
その影響は深刻です。
単に商品の売り上げが減るだけではありません。
商品の値上げを予定していた場合は、値上げを中止せざるを得ません。
資金調達(社債発行など)を予定していた場合は、資金調達を中止せざるを得ません。
独禁法違反に関与した従業員は、たとえどれほど優秀な人材だったとしても、多くの場合、会社を去らなければなりません。
以上