独禁法リスクのリスクマネジメントについて①

社会常識としての独占禁止法66

執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、独禁法リスクのリスクマネジメントについて、お話します(全2回の第1回)。


1 独禁法リスクのマネジメント

 前回のコラムでお話したとおり、独禁法違反には法的リスク(コンプライアンスリスク)があり、このリスクは日々増大しています。
 企業としては、予想されるリスクを洗い出し、事前に対策することにより、リスクが顕在化することを防止するとともに、仮に顕在化した場合の損失を可能な限り軽減することこそが、リスクマネジメントの要となります。
 それでは、企業が独禁法リスクをマネジメントするには、どのような施策が必要になるでしょうか?



2 施策その1 : 独禁法コンプライアンス・プログラムを組む

 各社が抱える独禁法リスクは、各社ごとに異なります。それぞれの事業内容や市場環境等により、談合・カルテルのリスクが高かったり、優越的地位の濫用のリスクが高かったり、千差万別です。
 自社の場合、その経営モデルからすればどのような独禁法リスクがありうるかを、事前に具体的に洗い出します。
 そして、そのリスクが顕在化することを防げるような施策(独禁法コンプライアンス・プログラム)を策定します。
 例えば カルテルや入札談合を犯しがちな経営モデルなのであれば、自社の営業員が同業者の営業員と接触する場合の接触ルールを策定するといったことです。
 プログラムの名称は、「法令順守マニュアル」でも良いですが、独禁法に特化した「独占禁止法遵守マニュアル」のような名称でも構いません。入札談合を犯しがちな経営モデルならば、談合防止に特化した「談合防止マニュアル」でも良いでしょう。
 現在では、多くの会社が独禁法コンプライアンス・プログラムを制定していますが、はたして実効的に機能しているでしょうか?
 定期的に、自社の経営モデルにおける独禁法リスクの洗い出しやその防止策を見直すことも、必要でしょう。

3 施策その2 : 法務・コンプライアンス担当部署を充実させる

 法務・コンプライアンス担当部署が独禁法コンプライアンスを実効的に推進できるよう、きめ細かな体制整備が必要です。
 例えば、法務・コンプライアンス担当部署に専任の役員がいないのであれば、担当役員を指名します。
 法務・コンプライアンス担当部署において、独占禁止法分野を担当する者がいないのであれば、担当者を指名します。場合によっては同部門の人員増も検討します。
 事業部門(営業部門)における(独禁法)法務・コンプライアンス担当者の指名も有用です。
 例えば、全国に支店を有する大企業の場合、各支店が裁量的な営業判断により独禁法違反を犯してしまうことがしばしばあります。本社による支店の監査には限界があります。各支店の法務・コンプライアンス担当者による独禁法監査は、極めて重要です。


4 施策その3 : 社内研修を実施する

 多く場合、会社は、社員の独禁法に対する理解不足が原因で、独占禁止法に違反します。
 社員に対して独禁法コンプライアンス上必要な知識を習得させるためには、社内研修が重要です。
 法務・コンプライアンス担当部署だけでなく、事業部門(営業部門)に対する研修も必要です。事前に洗い出した独禁法リスクに応じ、特にリスクが高いと思われる部署に実施するのが良いでしょう。
 例えば、支店の独禁法違反を防止するための支店長研修などです。


次回「社会常識としての独占禁止法67 独禁法リスクのリスクマネジメントについて②」に続きます。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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