独禁法違反と刑事罰 ~刑事告発されるか否か

社会常識としての独占禁止法⑲
執筆:弁護士  多田 幸生

独禁法違反による刑事罰

独禁法に違反すると、刑事罰を受けることがあります。

たとえば入札談合やカルテルなど「不当な取引制限」を行った事業者(会社)は、5億円以下の罰金刑を科されます。
事業者(会社)だけでなく、社内の担当者も、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金を科されます。

直近の例を2つ挙げます。

いわゆるリニア談合事件(平成30年12月)では、O建設の常務執行役員とK建設の専任部長が逮捕され、計4社が起訴されました。
令和3年3月1日、T建設とK建設両社を罰金2億5000万円、T建設の元常務執行役員とK建設の元部長を懲役1年6月(執行猶予3年)とする有罪判決が下されました(現在、控訴審に係属中)。

直近では、いわゆる医薬品卸入札談合事件(令和2年)において、令和2年11月、A社、S社およびT社の3社ならびに3社の営業担当者7名が公取委により刑事告発され、令和2年12月、東京地検特捜部により起訴されました(判決前)。



公取委による刑事告発の基準

刑事訴追されるか否かは、事実上、「公取委が東京地検特捜部に刑事告発するか否か」によって、大きく左右されます。
公取委は刑事告発に関する方針を公表しています。

公正取引委員会「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」

それによれば、公取委は、①事案の悪質性及び重大性、②事業者が違反を反復しているか否か、の2点を重視しているようです。
①については、悪質事例の具体例として、カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占が挙げられています。
前述したリニア談合事件及び医薬品卸入札談合事件は、いずれも、①「談合事件」という事案の悪質・重大性もさりながら、②違反事業者に過去に違反を繰り返している者が含まれていたために、刑事告発されてしまったものと思われます。


リニエンシーによる刑事訴追の免脱

ただし、公取委の方針には、「調査開始日前に」、「最初に」、違反行為を自主申告(リニエンシー)した事業者及びその従業員等は刑事告発しない、と明記されています。

この点について、リニア談合事件では、O組がリニエンシー(自主申告)したにもかかわらず、刑事訴追を免れることができなかった旨報道され、話題になりました。
O組は「最初に」自主申告を行うことには成功したものの、公取委による調査開始日に(おそらく数日)遅れてしまったがために、「調査開始日前に」自主申告したと認められず、刑事告発されてしまったものと思われます。

産経新聞「O組、真っ先に自主申告も刑事訴追免除されぬ可能性も 課徴金、免除でなく30%減額」


私見

公取委による刑事告発の件数は2年に1件程度と少数ですが、これは、公取委が刑事告発に消極的であることを意味しません。
方針②により「事業者が違反を繰り返しているか否か」を重視した結果、告発するべき事例が少なくなっているに過ぎないと思われます。
むしろ、違反を繰り返す事業者に対しては、リニア談合事件や医薬品卸談合事件のように、積極的な刑事告発がなされていると言えます。

事業者側の対策としては、そもそも独禁法違反を行うべきでないことは勿論ですが、万が一、独禁法違反を行ってしまった場合には、厳格な再発防止策を講じることにより、独禁法違反を繰り返さないこととが肝要です。
加えて、独禁法違反を自力で発見することも、重要です。
公取委の立入検査により独禁法違反が判明した場合、自主申告(リニエンシー)により刑事訴追を免れることはほとんど不可能です。
例えば、社内における定期的な独禁法監査の実施に加え、内部通報制度を独禁法違反にも活用するといった方策が考えられます。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada
会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する
 

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