拘束条件付取引③~テリトリー制の注意点

社会常識としての独占禁止法㉛
執筆:弁護士  多田 幸生

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、テリトリー制が違法な「市場分割」とならないようにするための注意点について、お話しします。

(参考)


1 テリトリー制とは

「テリトリー制」は法律用語ではありませんが、一般的には、メーカーなどが、その商品の販売業者に対して、地域ごとのテリトリーを割り当て、販売業者にすみわけをさせる制度のことをいいます。

 テリトリー制を販売業者側から見ると、たとえば「北海道」を割り当てられたA社が、B社が担当する「東北地方」では販売できないとすれば、A社はメーカーによって販売地域を制限されていることになります。

 このように、テリトリー制には販売業者の事業活動を拘束する側面がありますので、「拘束条件付取引」の問題点を潜在的にはらんでいます。

 事業者がテリトリー制を導入する場合には、「拘束条件付取引」に抵触し独禁法に違反することがないように、注意深く制度設計しなければなりません。


2 テリトリー制の種類

公正取引委員会は、テリトリー制を次の4種に分類し、規制しています。
①<②<③<④の順で、重い規制となります。

(流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針第1部第2の3)

責任地域制一定の地域を主たる責任地域として定め、当該地域内において、積極的な販売活動を行うことを義務付けること
販売拠点制店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり,販売拠点の設置場所を指定すること
厳格な地域制限一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること
地域外顧客への受動的販売制限一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること


3 ①責任地域制・②販売拠点制について

 販売業者に対する拘束が比較的軽く、違法となりにくい制度です。

 公正取引委員会も、

「商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため,流通業者に対して責任地域制や販売拠点制を採ることは,厳格な地域制限(註。「③」)又は地域外顧客への受動的販売の制限(「註。「④」」)に該当しない限り,」

 違法ではないとしています。


4 ③厳格な地域制限

販売業者に対する拘束が重く、独禁法に抵触する可能性があります。公正取引委員会は次のように考えています。

 「市場における有力な事業者が流通業者に対し厳格な地域制限を行い,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる」

 なお、新商品のテスト販売や、地域土産品の販売に当たり販売地域を限定することは、通常、「価格維持効果」を生じないので、適法とされています。


5 ④地域外顧客への受動的販売制限

 販売業者に対する拘束が最も重く、独禁法に違反する可能性が高い類型です。

 公正取引委員会は次のように考えています。③と異なり、「市場における有力な事業者」でなくても違法となることに、注意が必要ですす。

 「事業者が流通業者に対し地域外顧客への受動的販売の制限を行い,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる」


6 ①②と③④の違い ~「価格維持効果」の有無~

 以上を要するに、公正取引委員会は、そのテリトリー制によって価格維持効果が発生する場合は違法、と考えています。

 基準は、そのテリトリー制の導入により、メーカーが、商品の価格を「ある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じるかどうかです。


公正取引委員会のチェックポイント

ア ブランド間競争の状況
  (市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
イ ブランド内競争の状況
  (価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)
ウ 事業者の市場における地位
  (市場シェア、順位、ブランド力等)
エ 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
オ 取引先事業者の数および市場における地位

(流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針第1部第1の3(1))

7 事前検討の重要性

 「6」に挙げた「公正取引委員会のチェックポイント」をご覧になっていただければ、テリトリー制が適法かどうかの判断はなかなか容易ではないとお分かりいただけると思います。
 弁護士でも、即答できない場合がほとんどではないでしょうか。

 テリトリー制を導入するときは、事前に適法性について十分検討することが重要です。場合によっては、公正取引委員会に事前に相談に行くのも良いでしょう。

以上


コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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