「取引妨害」

社会常識としての独占禁止法㉜
執筆:弁護士  多田 幸生

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
  今回は「取引妨害」を取り上げます。


1 取引妨害とは

「取引妨害(競争者に対する取引妨害)」は、独占禁止法が禁止する行為(不公正な取引方法)の一つです。簡単に言うと、
「事業者は、自己と競争関係にある他の事業者とその取引相手との取引を不当に妨害してはならない。」
というルールです。
(正確な条文は、一般指定14項をお読みください)

 自由経済の下では、良質廉価な商品の提供により顧客を奪い合うことは競争そのものです。顧客を奪い合うこと自体は、本来、禁止されるような行為ではありません。

 しかしながら、事業者の中には、およそ競争行為と言えないような不公正な行為を行う者や、特定の競争相手を排除することにより価格維持等の目的を不正に実現しようとする者が一定数存在します(公正競争阻害性)。

 そこで、独禁法はそれらの不当な行為を「取引妨害(競争者に対する取引妨害)」と呼んで、これを禁止しているわけです。

 取引妨害は、公正取引委員会による排除措置命令の対象となり、裁判所から差止めを受ける可能性もあります。


2 具体例:通信カラオケ機器事件

 取引妨害は、実例を見るのが一番です。
 近時の実例として、通信カラオケ機器の事件ありますので、ご紹介します。なかなか面白い事件です。

 平成13年頃、通信カラオケ機器業界1位(シェア44%)の「DAM」を営むD社は、3位(シェア11%)の「JOYSOUND」を営むE社から次々に特許訴訟を提起され、一時的に劣勢になっていました。

 そこで、D社は、「E社の事業活動を徹底的に攻撃していく」との方針を決定しました(仮名処理していますが、下線部は公取委の認定ママです。)。

 D社は、歌謡曲(演歌など)の楽曲管理会社2社を買収(子会社化)しました。
 買収直後(1~2か月後)、当該2社からE社に対し「以後、管理楽曲の使用を許諾しない」と通知させて、JOYSOUNDで2社の管理楽曲を使えなくしました。

 さらに、D社は、通信カラオケ機器の卸売業者やユーザー(カラオケ店、スナックなど)を個別に訪問し、「E社の機器では2社の管理楽曲が使えなくなる」などと告げて回りました。

 公正取引委員会は、D社による一連のD社の行為は、「競争者に対する取引妨害」に該当すると認定しました(公取委審判審決平成21年2月16日)。


3 チェックポイント:行為の悪質性と取引妨害目的

これは私見ですが、公正取引委員会は、行為が悪質な場合や、取引妨害目的が明白な場合には、市場効果の大小をさほど重視せず、幅広に取引妨害を認定する傾向があるように思われます。

実は、通信カラオケ機器事件については、D社の行為は市場にほとんど影響を与えなかったのではないか、という意見があります。

しかしながら、当時、D社は、E社から法廷闘争を仕掛けられ、一時的に劣勢に陥ったために、「E社の事業活動を徹底的に攻撃していく」という社内方針を決定していました。

「徹底的に攻撃」という過激な言葉から、D社の取引妨害目的を認定することは容易だったでしょう。

私には、これが決定打だったように思われてなりません。

公正取引委員会の傾向をつかむには最適の事例と思われましたので、通信カラオケ機器事件をご紹介した次第です。

(余談ですが、「D社が『E社を徹底的に攻撃する』という社内方針を決定した」という公取委の認定は、実におそるべき認定です。いったいどのような証拠に基づいて、このような認定を行ったのでしょうね?)

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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