拘束条件付取引①~安売り業者への販売を禁止できるか~

社会常識としての独占禁止法㉗
執筆:弁護士  多田 幸生

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています
「今回から「拘束条件付取引」」について、を取り上げます。

1 拘束条件付取引とは

「拘束条件付取引」は独占禁止法が禁止する行為(不公正な取引方法)の一つです。簡単に言うと、

「事業者は、相手の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引をしてはならない。」

というルールです。
(正確な条文は、独占禁止法2条9項3号一般指定12項をお読みください)

拘束条件付取引は、公正取引委員会による排除措置命令の対象となります。裁判所から差止めを受ける可能性もあります。



2 「ブランド」と拘束条件付取引

拘束条件付取引は、「ブランド」との関係で特に問題となります。
なぜなら、企業は、商品に付加価値を付け、ブランド力を高めるために、商品の価格・流通経路・販売方法などを制限しようとすることがしばしばあるからです。
制限に合理性があれば良いのですが、不当な制限の場合、拘束条件付取引規制に違反するおそれを生じるわけです。



3 安売り業者に対する販売を禁止できるか?

ある企業が、商品のブランド力を高めるため、「安売りを制限したい」と考えたとします。
認められるでしょうか?

一番簡単な方法は、「安売り業者への流通経路を断つこと」です。
メーカーが、卸売業者に商品を販売する際に、「安売りする小売業者には販売しない」という条件を付ける方法などです。
しかし、流通業者が販売価格を自由に決定できることは自由経済の基本であり、それを制限する行為は価格競争を阻害します。よって、このような行為は原則として「拘束条件付取引」に該当し、違法(独禁法違反)となると解されています。※
「安売り業者への販売を禁止すること」は控えるべきでしょう。

※ 行為の態様により、「取引拒絶」(一般指定2項)という規制に違反する可能性もあります。



4 「選択的流通」は許される

「選択的流通」という考え方があります。
メーカーが、一定の基準を満たす流通業者に限定して、自社の商品を取り扱わせる、という考え方です。

「一定の基準」は、当然ながら、価格ではありません。
商品の品質の保持,適切な使用の確保等,消費者の利益の観点から合理性がある基準を定め、その基準をみたす流通業者にだけ商品を扱わせるということです。

この基準を平等に適用した結果、特定の安売り業者等が基準を満たさず,当該商品を取り扱うことができなかったとしても、「拘束条件付取引」に該当せず、違法(独禁法違反)とならないと解されています(流通取引指針・第2の5)。

安売り業者を排除することによりブランド力を向上させるのではなく、消費者の利益となるよう商品価値を高めることによりブランド力を向上させる、ということです。



5 チェックポイント:「基準」に合理性があるか?

かくして会社は「選択的流通」を目指します。
流通業者を選定する基準「一定の基準」を定め、それを満たさない安売り業者に対する販売を制限しようとすることになります。
たとえば、「商品の説明販売をすること」「商品の品質管理の条件を指示すること」など、販売方法についての基準を定めることが多いでしょう。

独禁法の落とし穴がここにあります。

「4」で述べた通り、基準には「合理性」が必要です。
公正取引委員会は、会社が考えている以上に、基準の「合理性」を厳格に考えます。

たとえば、漫然と「商品を販売する際は商品説明をすること」と定めても、合理性は認められません。

「その商品は、本当に商品説明をしなければ販売できない商品なのか?」
「説明文をHPに記載しているインターネットの安売り業者への販売への販売を禁止することは許されるのか?」

といった分析的な考察が必要になります。

販売方法の基準(制限)の合理性についての分析的な考察は、拘束条件付取引のチェックポイントの一つと言えるでしょう。
次回のコラムでは、この点についてお話ししたいと思います。

以上

    当社では「企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法」
    について、弁護士による独占禁止法解説セミナーを企画しております。
    下記アンケートにご協力お願いいたします。

    独占禁止法解説セミナーにご興味ありますか?


    どのような内容にご興味がありますか

    コラム 執筆 担当

    顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

    会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
    以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
    【モットー】
    ・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
    ・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
    ・法務部員のキャリア形成に貢献する

    →→プロフィールを見る