拘束条件付取引② ~販売方法の制限~

社会常識としての独占禁止法㉘
執筆:弁護士  多田 幸生

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています
今回は、「拘束条件付取引」の第2回です。

1 販売方法の制限は「拘束条件付取引」に当たるか?

前回コラム【拘束条件付取引①~安売り業者への販売を禁止できるか~】に書いたとおり、事業者が、相手の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けて取引することは、独占禁止法により禁止されています(拘束条件付き取引)。

 しかしながら、メーカーや卸売業者の立場からすると、自己の商品の安全性・品質の確保、ブランド・イメージの保持等の目的で、小売業者に対し、商品の販売方法を具体的に指示(制限)したいことが多々あります。

たとえば、
  • ①商品の販売に際して、使用方法などの説明を義務付ける、
  • ②チラシなどにおける価格の公告・表示方法を制限する、
  • ③商品の品質の管理の条件を指示する、
  • ④自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示する、
といったことです。

 これらの行為は、事業者(メーカー・卸売業者)が相手(小売業者)の事業活動を拘束する条件を付けて取引していることにほかなりません。
よって、その条件が「不当」であれば、独禁法違反となりえます。

「不当」か否かの判断基準について、最高裁判所は、

「・・・それが当該商品の販売のためのそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、他の取引先に対しても同等の制限が課せられている限り、」
不当な拘束条件に当たらず、許されると判示しています。

(最判平10・12・18。資生堂東京販売(富士喜)事件)

逆に言えば、拘束条件が合理的な理由に基づくものと認められない場合には、「不当」な拘束条件付き取引に該当し、許されません。



2 許される拘束条件の具体例

① 化粧品について、対面販売を義務付けるとともに、対面販売を行わない小売業者への販売を禁止したことが、独禁法に違反しないとされたケースがあります。
(最判平10・12・18(前掲最判と同日)。花王化粧品販売事件)

② 医療機器について、通信販売を禁止するとともに、通信販売を行っている小売業者への販売を禁止することが、独禁法に違反しないとされたケースがあります。
(平成23年度相談事例集1)

③ 機械製品について、小売業者に対し、新商品の機能を店員に説明させることや、説明用の動画をショッピングサイトに掲載させることが、独禁法に違反しないとされたケースがあります。
(平成26年度相談事例集6)



3 販売方法の制限により、安売り業者を廃除することができるか?

前回コラムでは、「選択的流通」という考え方をご紹介しました。
選択的流通という考え方は、「販売方法の制限」と親和性があります。
あるメーカーが、小売業者に対し、「2」で述べた「対面販売の義務付け」、「通信販売の禁止」「商品説明の義務付け」などの拘束条件を課したとします。

 その拘束条件に合理性が認められ、「不当」でない場合には、その条件を満たさない特定の安売り業者が、当該商品を取り扱うことができなかったとしても、独禁法に違反しません(流通取引指針・第2の5)。
しかしながら、拘束条件の運用に当たっては、注意が必要です。

例を挙げます。

 A社が、対面販売を行わない安売り業者(B社)との特約店契約を解除したとします。
 そのB社が、訴訟を提起して、裁判所に対し「C社もD社も対面販売を行っていないのに、B社だけが解除された。」と訴えたとします。
 裁判所からすれば、A社が、対面販売を口実に、安売り業者を排除しようとしているようにしか見えないでしょう。
 要するに、拘束条件は、平等に適用される必要があります。前掲最高裁判決も、すべての取引先に対し同等の拘束条件を課すことを要求しています。

 上の例で言えば、A社は、「対面販売義務違反」を理由としてB社との特約店契約を解除するのであれば、C社やD社との特約店契約も、同じように解除しなければなりません。
 そうしなければ、A社は独禁法違反を免れることができず、B社に対する解除は無効(公序良俗違反)となるでしょう(神戸地判平成14・9・17参照)。

以上

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    顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

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