指定価格制度とは何か ~独禁法に違反しない安売り対策

社会常識としての独占禁止法57

執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は「指定価格制度」についてお話しします。   

1 指定価格制度とは

 指定価格制度とは、一般に、メーカーが、在庫リスクを負うことを条件として、自社製品の販売価格を指定する制度のことを言います。

 2020年にパナソニックが開始した制度と言われています。
 同社は、家電量販店に対し、一部の家電の販売価格を指定し、守らせています。
 家電量販店は、その商品を値引きできないので、消費者がいくら交渉しても、値引きしてもらえません。

 今、「独禁法に違反しない安売り対策」として、この指定価格制度に注目が集まっています。


2 再販売価格に関する独禁法上の規制

 独占禁止法には、「再販売価格の拘束の禁止」というルールがあります。
 簡単に言うと、

「メーカーは、自社の商品を小売業者等が販売する場合の小売価格等を決定し、小売業者等にその価格を守らせるような行為をしてはならない。」 

というルールです(正確な条文は、独禁法2条9項4号をご覧ください。」)

 人気商品やブランド品のメーカーが、安売りによる値崩れを恐れ、小売業者の販売価格を指定(拘束)しようとすることがしばしばあります。
 このような行為が価格競争を阻害することは明白なので、独禁法で禁止されているわけです。

 このコラムでは、過去に2回ほど、「再販売価格の拘束の禁止」の実例をご紹介しました。



3 指定価格制度

 と、いうわけで、人気商品やブランド品のメーカーは、安売りや値崩れを阻止したいのは山々ですが、それを実行に移し、小売価格を指定(拘束)してしまうと、たちどころに独禁法違反となります。

 では、今話題の指定価格制度は、「再販売価格の拘束」に当たり、独禁法に違反しないのでしょうか?

 結論を言うと、指定価格制度は、再販売価格の拘束に当たらず、独禁法に違反しません。

 最初にご説明しましたが、指定価格制度では、「メーカーが在庫リスクを負うこと」が前提となっています。
 もし商品が売れ残った場合、小売店はメーカーに対し引き取り(返品)を求めることができます。
 商品の滅失・毀損といった在庫管理のリスクも、小売業者ではなくメーカーが負います。
これは、実質的にはメーカーが消費者に直接販売している(小売店はそれを取り次いでいる)のに近い、と評価できます。

 なので、独禁法の禁止行為「再販売価格の拘束」には当たらないわけです。

 詳しくは、公正取引委員会HPの相談事例集 平成29年公表1「メーカーによる小売業者への販売価格の指示」に公取委の見解が掲載されていますので、お読みください。

(公正取引委員会HPより図を引用)



4 指定価格制度の長所・短所・導入方法

 指定価格制度のメリットは、人気商品やブランド商品の値崩れを防止できる点です。
 安売り対策として、一定の効果が期待できます。

 ただし、指定価格制度は、万能の安売り対策ではありません。
在庫リスクは小売店ではなくメーカー追っていますので、指定価格が高すぎて売れ残り・返品が多数発生した場合、メーカーが損をします。
 これを避けるためには、メーカー自ら、消費者の動向を見て、指定価格を下げていく必要があります。
 たとえばパナソニックでは、商品入れ替え期になると、型落ちになる商品の指定価格を実際に値下げしているようです。

 それでも、たとえば高級ブランド品などでは、返品リスクを覚悟してでも高値を維持し、ブランド価値を守りたい、ということもあるでしょう。
 指定価格制度は、そのような場面で効果を発揮すると思われます。

 指定価格制度の導入方法ですが、「メーカー⇒小売店⇒消費者」という販路構造の商品すべてについて、原理的には導入可能と思われます。
 もっとも、小売店の混乱を避けるためには、一部商品から導入を開始し、少しずつ対象商品を増やしていく、といった工夫が必要と思われます。
 また、間違って独禁法違反(再販売価格の拘束)にならぬよう、制度設計には細心の注意を払うべきでしょう。


以上



コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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