何度も独禁法に違反する業界のリスク~医薬品卸談合

社会常識としての独占禁止法㉚
執筆:弁護士  多田 幸生

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています
 令和3年6月末に有罪判決(入札談合罪)を受けたばかりの医薬品卸大手3社が、11月9日、再び入札談合の嫌疑で立入検査を受けたとの報道がありました。
 そこで、今回は、「何度も独禁法に違反する業界のリスク」についてお話しします。

1 医薬品卸大手による再度の入札談合

 令和3年11月9日、医薬品卸業者6社が、入札談合の嫌疑により公正取引委員会の立入検査を受けたとの報道がありました。

日本経済新聞 令和3年11月9日「医薬品卸6社談合疑い 九州の病院向け、公取委立ち入り」

 衝撃的だったのは、その6社の中に、令和3年6月30日に入札談合罪で有罪判決を受けたばかりの3社が含まれていた点です。

 この裁判では、医薬品卸大手3社(S社、T社及びA社)の有罪(入札談合)が認定され、3社ぞれぞれ2億5000万円の罰金を科されました。
 S社、T社及びA社の幹部(執行役員、統括部長、課長等)に対しては、執行猶予付きの懲役判決が下されました。
 各社各人とも控訴をせず、有罪判決は確定しました。
 その判決からわずか4月余りで、別の入札談合の嫌疑が発覚したことになります。



2 独禁法違反を繰り返す業界

 医薬品卸業者に限らず、独禁法違反を何度も繰り返していることで有名な業界は、いくつか存在します。
 最も有名なのは、ゼネコンでしょう。
 最近では、リニアモーターカーの工事につき、大手建設会社4社が入札談合を行ったとして、会社や執行役員が有罪判決を受け(2社は控訴中)、課徴金43億円などが課されました。

 そのほか、製缶メーカーも、たびたび独禁法違反(主にカルテル)を繰り返していることで有名です。

 独禁法違反を繰り返す業界の特徴は、「組織ぐるみの慣行的な受注調整」です。

 現場の担当者から幹部(役員級)までが、重層的に協議を重ねて、競争を回避することが、長年の慣行(商慣習)になってしまっているために、社内にこの慣行を辞められる者が誰もいない、というケースが多いと思われます。

 有罪判決や課徴金納付命令は、そのような慣行、慣習を改めるチャンスのはずですが、実際に改めることはなかなか難しいようです。



3 独禁法違反を繰り返すことのリスク

 独占禁止法を繰り返すことによるリスクは重大です。
 以下、私が特に重大だと思うリスクを列挙します。

◎ 課徴金が1.5倍になる

 独禁法7条の3です。10年以内の再犯や悪質事業者に対する課徴金は1.5倍に加算されます。
「社会常識としての独占禁止法⑬ 課徴金の受け方~リニア談合事件をヒントに~」
ではその実例をご紹介しました。
 O組の場合、30億円が45億円に増える計算です。

<課徴金計算(推定)>
 O組 : 売上300億円 × 算定率(10%) ×1.5倍 = 約45億円
 S建設: 売上120億円 × 算定率(15%) ×1.5倍 = 約18億円
※ ただしリニエンシーによる減額を受ける前の金額です。

◎ 刑罰を科される

 入札談合やカルテルは犯罪です。
 会社には5億円以下の罰金刑が、従業員には5年以下の懲役刑又は500万円以下の罰金刑が、科されます。
 公正取引委員会は、独禁法違反を繰り返す会社を刑事告発する旨の指針を公表しています。実例を見ても、告発された会社のほとんどが再犯です。
 つまり、独禁法違反を繰り返す事業者は、刑事告発され、刑罰を科されるリスクが極めて高いと言えます。

◎優秀な人材が失われること

 会社の幹部にも刑事罰が科されます。
実例では、執行役員、部長、課長などに対し、執行猶予付き懲役刑が下されています。彼らの多くは、会社を去っています。
 これは、「談合罪を犯したのだから仕方ない。」と割り切ってよい話でしょうか?

 たとえば10年前に、会社が悪しき商慣習を改めていれば、彼らは談合を行わず、刑罰も受けず、会社を去らずに済んだのではないでしょうか?

 以前、「社会常識としての独占禁止法③~談合~で、「優秀な営業員ほど、談合やカルテルを行ってしまう」ことをご紹介しました。

 優秀な人材が独禁法違反により失われることは、もしかしたら、会社にとって最も大きな損失かもしれません。

以上

    当社では「企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法」
    について、弁護士による独占禁止法解説セミナーを企画しております。
    下記アンケートにご協力お願いいたします。

    独占禁止法解説セミナーにご興味ありますか?


    どのような内容にご興味がありますか

    コラム 執筆 担当

    顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

    会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
    以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
    【モットー】
    ・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
    ・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
    ・法務部員のキャリア形成に貢献する

    →→プロフィールを見る

    ◎優秀な人材が失われること

     会社の幹部にも刑事罰が科されます。
    実例では、執行役員、部長、課長などに対し、執行猶予付き懲役刑が下されています。彼らの多くは、会社を去っています。
     これは、「談合罪を犯したのだから仕方ない。」と割り切ってよい話でしょうか?
     たとえば10年前に、会社が悪しき商慣習を改めていれば、彼らは談合を行わず、刑罰も受けず、会社を去らずに済んだのではないでしょうか?

     以前、「社会常識としての独占禁止法③~談合~で、「優秀な営業員ほど、談合やカルテルを行ってしまう」ことをご紹介しました。

     優秀な人材が独禁法違反により失われることは、もしかしたら、会社にとって最も大きな損失かもしれません。