私的独占② ~「排除型」私的独占とはどのような行為か~

社会常識としての独占禁止法
執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。  今回は「排除型私的独占」についてお話します。

1 排除型私的独占とは

 前回、私的独占とは「不当な手段によって市場を独占したり、独占状態を維持・強化してはならない。」というルールだと説明しました。
 「排除型」の私的独占とは、「排除」という不当な手段によって市場を独占したり、独占状態を維持・強化する行為のことです。
 「排除型私的独占」という言葉がやや難しく、とっつきにくい印象があります。
しかし、平成21年6月の独禁法改正により、排除型私的独占には課徴金が課されることになり、公取委が個別にガイドラインを定めるなど、重要性が増しています。
 以下、なるべくわかりやすく解説します。


2 どのような行為が排除型私的独占に当たるか?

 「排除」による私的独占とは、どのような行為のことを言うのでしょうか?

 排除行為は多様かつ不定形であり、一概に言えません。
自由競争行為社会において、適法な競争行為と、違法な排除行為を区別することは、なかなか容易ではありません。
 そこで、公正取引委員会は排除型私的独占についてのガイドライン
を公表しています。

 それによれば、「排除」の典型例として、次の4つ(「その他」を含めると5つ)があります。

  • 「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」
  • 「排他的取引」
  • 「抱き合わせ」
  • 「供給拒絶・差別的取り扱い」
  • その他(取引妨害など)


3 「不当廉売」や「抱き合わせ販売」などとの違いや基準は?

 独禁法について素養のある人であれば、ガイドラインに挙げられた①~④の類型について、聞き覚えがあるでしょう。
 独禁法には、「不当廉売」「排他条件付き取引」「抱き合わせ販売」「取引拒絶」「差別取扱」といった禁止行為についての、個別の条文があります。

 このコラムでも、これらを何度も取り上げてきました。

 これらは(排除型)私的独占だったのでしょうか?

 ①の「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」というのは、要するに、不当廉売のことのように見えます。
たとえば、不当廉売行為を行ったら、「私的独占」と「不当廉売」の両方に違反することになるのでしょうか?
たとえば、抱き合わせ販売行為を行ったら、「私的独占」と「抱き合わせ販売」の両方に違反することになるのでしょうか?

 いいえ、違います。

 何が違うかと言うと、市場に対する影響(深刻さ)が違います。
 行為類型としては同じですが、重い行為が「私的独占」、軽い行為が「不当廉売」「抱き合わせ販売」その他です(後者は、独禁法上「不公正な取引方法」と呼ばれます。)。
 独禁法上の基準としては、「一定の取引分野(注:「市場」のこと)における競争を実質的に制限」するほど重ければ、私的独占に該当します。ただ、抽象的でわかりにくい。

もう少しわかりやすい、数字の基準が必要ですね。

 公正取引委員会のガイドラインによると、公取委は、「市場シェア50%」を私的独占の審査の優先的実施基準として採用しています。

そこで、ごくおおざっぱな基準としては、市場シェア50%を超える者が排除(不当廉売、抱き合わせ販売など)を行った場合には、「私的独占」に該当するリスクが高い、と考えておけばよいでしょう。


4 排除型私的独占は刑罰や課徴金が重い

 このように、排除型私的独占と、不公正な取引方法(不当廉売、抱き合わせ販売など)は、同じ行為類型ですが、行為の重さ(深刻さ)が違います。
そのため、、刑罰(※)や課徴金の重さが全く異なります。

※ 念のため。私的独占は犯罪行為なので、刑罰があります。

<刑罰と課徴金の違い>

刑罰 課徴金の基本料率
排除型私的独占 五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金 6%
不公正な取引方法 なし 3% (共同の取引拒絶差別対価、
不当廉売再販売価格の拘束)

公取委HP【https://www.jftc.go.jp/dk/seido/katyokin.html】より部分引用。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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