~スマホの修理と独占禁止法~抱き合わせ販売・取引妨害

社会常識としての独占禁止法㉕
執筆:弁護士  多田 幸生

1 「スマートフォンを修理する権利」とは

今、「スマートフォンを修理する権利」に注目が集まっています。

日本経済新聞令和3年8月2日「バイデン政権、『スマホ修理の権利』支援 競争を促進」

スマートフォンの内部構造は秘匿性が高く、複雑難解であり、現在、メーカーを介さずに修理をすることは事実上困難とされています。このスマートフォンの修理を、メーカー以外でも自由に行うことができるようにしよう、というのが「スマートフォンを修理する権利」の議論です。



2 「エレベータを修理する権利」との類似

この話を聞いて、私はすぐに、「東芝エレベータテクノス事件」(東京高判平成23年9月6日)を思い出しました。
故障したエレベータの修理(部品交換)についての著名な事件です。

【事件の概要】
T社は、Tグループ製エレベータ(業界3位)の修理(故障部品の供給と取り換え調整工事)をセットにしていました。

あるビルでエレベータが故障し、独立系の点検業者がT社に部品を発注したのですが、T社は自社以外が修理工事することを認めず、独立系業者からの部品発注を拒否し、部品を供給しませんでした。
その結果、独立系業者は、ビルのオーナーから点検契約を解除されてしてしまいました。

その後、ビルのオーナーはT社との間で点検契約を締結し、T社による修理工事が行われました。

東京高等裁判所は、上記事件について、T社が独立系業者に部品を供給しなかったことは、「抱き合わせ販売」や「取引妨害」に該当し、独占禁止法に違反する、と認定しました。
そして、T社に対し、独立系業者の損害を賠償するよう命じました。

この判決は、エレベータ製造業者によるエレベータ修理の抱え込みに対し、裁判所がストップをかけた事件として、評価されています。
「エレベータを修理する権利」を認めた判決と言ってさしつかえありません。
この判決の後、利用者は、メーカー以外の独立系業者に対し、エレベータの修理を依頼することができるようになりました。



3 スマートフォンの修理が解禁される可能性


スマートフォンの修理をめぐる議論は、明らかに、エレベータの修理についての議論と類似しています。

上でご紹介した高裁判決から考えますと、今後、アメリカだけでなく日本においても、スマートフォンの修理についての議論が加速することは必至です。
いずれ、修理が解禁される方向に進むのではないかと考えます。

アメリカ連邦取引委員会(FTC)は、本年5月の報告書でA社を名指しで批判し、A社製のスマートフォンは修理が複雑で、バッテリー交換費用が高すぎると指摘しています。

これはスマートフォンに限った話ではありませんが、製品(プログラム)の内容を不必要に複雑にすることで、自社以外の業者が修理することを事実上困難にすることがよくあります。
顧客の抱え込みを目的とする不必要な複雑化は、それ自体、独禁法上の問題がありますので、今後、是正される可能性があります。

いずれ、街の業者で簡単にスマートフォンを修理できる日が来るかもしれません。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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