処分取消訴訟 ~電力談合事件を題材に~

社会常識としての独占禁止法59

執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 日、電力談合事件で275億円の課徴金納付命令を受けた中部電力が、処分取消訴訟を提起するとの報道がありました。そこで、今回は、処分取消訴訟を取り上げたいと思います。

1 処分取消訴訟とは

 独禁法に違反した事業者は、公正取引委員から排除措置命令や課徴金納付命令を受けます。

 これらの命令は「行政処分」なので、不服があれば、行政事件訴訟法に基づき、処分の取り消しを求める訴訟を提起することができます。
 これが「処分取消訴訟」です。


2 裁判所はどのように判断するか

 裁判所は、排除措置命令や課徴金納付命令をした公取委の判断に拘束されず、自由な心証により、判断を下します。
 もっとも、公取委に裁量の濫用・逸脱があった場合に限り、命令が取り消されるルールです(行訴法30条)。
 これは、通常の行政訴訟と同様に、行政側(公取委)の判断がある程度尊重されることを意味します。
 なので、訴訟の難易度は極めて高く、敗訴率も高いのですが、勝訴例もあります。
 2019年の電子部品カルテル訴訟では、課徴金4億円超の一部が取り消され、課徴金の減額に成功したと言われています。


3 手続き ~提訴期間、管轄など

 処分取消訴訟には期間制限があります。処分があったことを知った日から6カ月以内または処分の日から1年以内に出訴しなければなりません(行訴法14条1項2項。正当な理由があるときは別。)。
 処分取消訴訟の被告は、「国」ではなく「公正取引委員会」です(独禁法77条)。
 公取委に対する処分取消訴訟の裁判管轄は、東京地方裁判所の専属管轄となっています(独禁法85条)。
 なので、「4」で述べる中国電力や中部電力の訴訟も、東京地裁に係属することになります。


4 電力談合事件について予想される処分取消訴訟

 史上最高額の課徴金となった電力談合事件では、3社に対し、計1010憶円もの課徴金納付命令が下されました。
 この命令に対し、今後、各社は処分取消訴訟を提起するだろうと予想されています。

 すでに、中部電力(課徴金275億円)は、記者会見で、処分取消訴訟を提起すると発表しています。
 中国電力(課徴金707億円)も、未定ではあるものの、処分取消訴訟を検討していることを発表しています。

日経新聞3月30日報道 2件(いずれも有料記事)

 百億単位の課徴金をそのまま受け入れれば、経営陣は株主代表訴訟などで責任を追及されかねないので、処分取消訴訟を提起せざるを得ないのかもしれません。 もっとも、処分取消訴訟に敗訴すれば、経営陣は、結局、株主代表訴訟のリスクに晒されることになります。

 なお、九州電力(課徴金27億円)は、処分取消訴訟の提起に対し慎重な姿勢を示しています。

 27億円もけっして少額ではありませんが、百億単位の二社と比べれば、許容できる数字ではあります。訴訟せずに幕引きを図る可能性は高いように思います。

 中部電力と中国電力の間でも、訴訟の内容については、温度差があります。

 中部電力は、「『関電側のメモは関電側の記憶に基づいて記したものにすぎない』(幹部)として、カルテルに合意した事実はないと主張」しているようです(前掲の日経記事)。
 この主張通りなら、中部電力は、課徴金275億円の全部取消し、つまり課徴金0円を目指すことになります。

 これに対し、中国電力は、「課徴金の対象となる売上高で(公取委と意見が)食い違っている」ので、訴訟提起を検討しているようです(同)。
 この主張通りなら、中国電力は、課徴金707億円の全部取消しではなく、一部取消し、つまり課徴金額の減額を目指すことになります。

 過去の裁判例で、課徴金納付命令が全部取消しに成功した事例は、1件もありません。
一部取消し(課徴金減額)なら、1件あります。
 さて、今回はどうなるでしょうか?

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
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