「排他条件付取引」~特約店契約の落とし穴

社会常識としての独占禁止法㉑
執筆:弁護士  多田 幸生

このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は「排他条件付き取引」について、お話しします。



1 排他条件付き取引とは?

「排他条件付き取引」は独占禁止法が禁止する行為(不公正な取引方法)の一つです。簡単に言うと、
「事業者は、取引相手に対し、ライバル会社(他社)と取引しないことを約束させてはならない。」
というルールです。
※ 正確な条文は公正取引委員会の「一般指定禁法」第11項をご覧ください。」

勘の良い読者の中には、
「それは『特約店契約』のことではないか。特約店契約は独禁法に違反するのか?」
と思われた方もいるのではないでしょうか。

特約店契約とは、メーカーなどにおいて、販売業者がそのメーカーの商品を積極的に販売する義務を負うという条件で、メーカーが商品を継続的に供給することを約束する契約です。
メーカーに限りません。たとえば、証券会社が、証券仲介業者に対し、自社に専属し他の証券会社に注文しないよう求めることも、一種の特約店契約です。

こういった特約店契約が直ちに独占禁止法するわけではありません。
なぜなら、特約店契約にはブランド力や流通経路の強化・取引コストの削減といった経済効果があり、必ずしも反競争的とは言えないからです。

しかしながら、市場シェアの大きな会社が、販売店に対し、ライバル会社(他社)との取引を一律禁止するような約束(「排他的特約店契約」あるいは「専売店制」)をさせた場合、ライバル会社は販売先を失って、市場から撤退せざるを得なくなるかもしれません。

そこで、独占禁止法は、このような特約店契約を「排他条件付取引」と呼び、禁止しています。

排他条件付取引は公正取引委員会による排除措置命令の対象となります。
特に市場シェアが大きい事業者(目安:50%)による排他条件付取引は、「私的独占」などの一ランク上の独禁法違反となり、課徴金納付命令の対象となることがあります。



2 具体例

公正取引委員会の摘発例として、ベッドメーカーのF社の事件が有名です。

F社は、小売業者に対し、F社の家具や寝具(ベッド)を一定数量以上販売する場合には「みのる会」などのチェーン会に加入し、ライバル会社製のベッドを取り扱わないよう約束させていました。
F社は市場シェアが大きく、小売業者に対しこのような約束を強いることは排他的条件付取引に該当すると判断され、公正取引委員会から排除措置命令を受けました(公取委勧告審決 昭和51年2月20日)。



3 セーフな特約店契約とアウトな特約店契約の違いは???

「拘束条件付取引」との関係で最も多い質問は、「セーフな特約店契約とアウトな特約店契約の違いがわからないのだが。」という質問です。

ご質問は至極もっともであり、弁護士でも、ある特約店契約がセーフかアウトかは即答できない場合がほとんどです。

一つの目安として、「市場シェア20%以下の事業者による特約店契約、原則として、拘束条件付取引に該当しない」という公取指針があります。これは、零細メーカーが特約店契約しても、ライバル他社の販路への影響はほとんどないので問題ない(=セーフ)という考え方です。
しかしながら、「市場」とはいったい何でしょうか?
F社の例で言えば、「ベッド市場」で20%以下ならセーフでしょうか?
たとえば「介護ベッド市場」は「ベッド市場」とは別の市場ではないでしょうか?もし別ならば、「ベッド市場」だけでなく「介護ベッド市場」のシェアも考えなければならないかもしれません。
市場判断の難しさがお分かりいただけるのではないかと思います。

市場シェア20%超の会社による特約店契約がただちに独禁法違反になるわけでもありません。
市場の状況などに鑑み、当該特約店契約がライバル会社の取引先を見出すことが著しく困難になるとまで認められない場合であれば、排他条件付取引には該当しません。
実例もあります。
平成16年、公正取引委員会は、シェア20%の証券会社が証券仲介業者に対し自社に専属し他の証券会社に注文しないよう求めることは、独占禁止法に違反しないと判断しました(平成16年度・事例2)。

一般論としては、シェアが大きければ大きいほど、独禁法違反になりやすいと言えます。
しかし、個別具体的な事情が結論に大きく影響し、セーフになることもあるので、難しいところです。



4 最後に

拘束条件付取引に当たるか否かのかの判断は非常に難しく、弁護士でも容易に判断できません。
しかし、事業者の立場からすれば、取引先に対しライバル会社との取引を禁ずることができるかできないかは、自社の経営戦略に大きな影響があるでしょうから、実施前に白黒はっきりさせておきたいところでしょう。
「抱き合わせ販売」のコラムでも同じことを申しましたが、「悩ましい限界事例では、事前に公正取引委員会に相談するべし。」というのが、勘どころかもしれません。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada
会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する
 

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