ガソリンスタンドは不当廉売に注意!
社会常識としての独占禁止法73
このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は、ガソリンスタンド業界を題材に、「不当廉売」についてお話します。
1 不当廉売とは
不当廉売については、以前にも一度取り上げました。
簡単に言うと、「不当廉売」とは、
「事業者は、極端に低い価格で、継続して商品や役務を提供してはならない。」
という独禁法上のルールです。
(正確な条文は、
独占禁止法 2条9項3号と一般指定6項 をお読みください)
自由経済の下では、企業努力による価格競争、すなわち、良質・廉価な商品を提供して顧客を獲得しようとする競争は、むしろ促進されるべきです。本来、禁止されるような行為ではありません。
しかしながら、事業者の中には、価格競争の名のもとに、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得し、ライバル事業者(新規参入者など)を市場から追い出そうとする者がしばしばいます(公正競争阻害性)。
そこで、独禁法は、極端に低い価格で継続的に商品を販売する行為を「不当廉売」と呼び、これを禁止しています。
不当廉売は、公正取引委員会による排除措置命令の対象となり、重い不当廉売に対しては課徴金の納付が命じられます。
裁判所から差止めを受ける可能性もあります。
2 ガソリンスタンドは公取委からマークされている
公取委が、「不当廉売」を犯しがちな業界として、ガソリンスタンドをマークしていることは、疑いのない事実です。
令和4年には、通達「ガソリン等の流通における不当廉売、差別対価等への対応について」を発出し、ガソリンスタンド業界の不当廉売を取り締まる姿勢を鮮明に示しています。
ガソリンスタンド業界は、直近に限っても、下表のとおり、頻繁に不当廉売事件を引き起こしていますから、やむを得ないことです。
年月 | 嫌疑 | 措置等 | 違反者 | 内容(場所) |
H19.11 | 不当廉売 | 排除措置命令、警告 | S社・H社・K社 | 栃木県小山市 |
H21.4 | 不当廉売 | 警告 | M社他6社 | 高知県高知市 |
H25.1 | 不当廉売 | 警告 | M社 | 福井県 |
H27.12 | 不当廉売 | 警告 | B社 | 愛知県常滑市 |
R5.5 | 不当廉売 | 警告 | S社他4社 | 茨城県土浦市 |
3 なぜ事業者は「不当廉売」を犯すのか?
読者の中には、消費者のために安売りをした事業者が、なぜ摘発されなければならないのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。
ガソリンスタンド業界は、不当廉売が摘発されなければならない理由を理解するために格好の題材です。
平成19年11月の栃木県小山市の不当廉売事件(排除措置命令)を例に取ります。
この事例では、小山市のガソリンシェア第1位の「S社」と、第2位の「H社」が、同時期に、約40日間にわたり、仕入れ値を下回る安値で、レギュラーガソリンを販売しました。
その結果は、どうなったでしょうか。
廉売を実施したS社(1位)とH社(2位)は、この安売りを機に、シェアをさらに拡大することに成功しました。
逆に、3位以下の零細ガソリンスタンドは、体力的に、安売り(廉売)に追随できませんでした。
そのため、零細スタンドはシェアをさらに減らしてしまいました。
つまり、大手にとっては、零細がついてこれないような廉価で長期間販売すれば、零細を駆逐できる、というメリットがあるのです。
S社とH社の廉売が40日間で終わっていなければ、体力のない零細スタンドは、いずれ廃業に追い込まれていたでしょう。
小山市のガソリンスタンドは、いずれ、S社とH社に独占されていたでしょう。
ひとたび独占されてしまえば、その後は正常な価格競争が働きません。
S社とH社が小山市のガソリン価格を自由に操れる状況となります。
結果的に、消費者が損をすることになります。
これが、ガソリンスタンドが不当廉売を犯す理由であり、独禁法が不当廉売を取り締まらなければならない理由です。
4 事業者側の注意事項
直近でも、令和5年5月17日、茨城県土浦市のガソリンスタンドが不当廉売の警告で受けています。
最近は原油価格が高騰していますので、安売り(廉売)により、効果的にライバルを駆逐できる状況です。そのため、不当廉売に該当する事例が増えると予想されます。
大手事業者としては、自社の安売りが「不当廉売」に当たってしまわぬよう、価格によく注意する必要があるでしょう。目安は、大雑把に言えば、「原価割れをしているかどうか」です。
逆に、零細事業者としては、大手やライバルが不当な廉価で販売しているときは、弁護士等に相談の上、公取委への「通報」を検討するべきでしょう。
以上
コラム 執筆 担当
顧問弁護士・講師 多田 幸生 Yukio Tada 会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。 |