罰金と課徴金の関係 ~医薬品談合事件を題材に~

社会常識としての独占禁止法㉟
執筆:弁護士  多田 幸生

   このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は「罰金」と「課徴金」です

 令和4年2月、独立行政法人「地域医療機能推進機構」(JCHO)発注の医薬品の入札を巡るいわゆる「医薬品談合事件」について、公正取引委員会が総額約4億2000万円の課徴金納付を命じる方針を固めたと報道されました

日本経済新聞「医薬品談合、卸3社に課徴金4.2億円命令へ 公取委」

 医薬品談合事件については、発覚以来、約2年間にわたり様々報道されてきましたので、耳にしたことがある方も多いと思われます。
 なかには、「昨年、裁判所で罰金判決を受けたのではなかったか?今回、また課徴金???」と疑問に思われた方もいるかもしれません。
 そこで、今回は、「罰金」と「課徴金」の関係や調整方法についてお話しします。

 「罰金」と「課徴金」は、似ていますが、全く異なる制度です。

 「罰金」は刑罰です。
 刑法犯に対し科される「罰金刑」です。
 刑法犯が会社(法人)の場合、法人の身柄を拘束する「懲役刑」は不可能ですから、そのかわり、金銭的に重い制裁を科すのです。
 刑罰ですから、裁判所が判決により科します。

 他方、「課徴金」は行政罰です。
 これは刑罰ではありません。
 なので、裁判所ではなく、行政(公取委)が、行政処分により課します。

 罰金と課徴金では根拠法規が異なります
 (「罰金」=独禁法89条~98条。 「課徴金」=独禁法7条の2~7条の9など。)

 根拠法規が異なるということは、二重に科される(課される)可能性があるということです(同法7条の7)。
 たとえば、談合行為が、独禁法89条と独禁法7条の2の両方に違反する場合には、「罰金」と「課徴金」の両方が発生します。

 課徴金の計算方法は独禁法により詳細に定められています。なので、事例ごとの綿密な課徴金計算により金額が決定されます。
 これに対し、罰金の計算方法は定められていません。上限金額が決まっているだけです。なので、罰金の決定方法は、ある意味、裁判所の裁量に委ねられています。

①公正取引委員会「課徴金制度」

②課徴金の計算方法 課徴金の「免除」の受け方~リニア談合事件をヒントに~


3 罰金と課徴金の順序とその調整方法 ~実例より~

 多くの場合、まず罰金刑を受け、次に課徴金納付命令を受けるという順を辿ります。
 医薬品談合事件の手続の流れを見てみましょう。

令和2年12月
 公取委、医薬品卸3社を東京地検特捜部に刑事告発
同月
 東京地検特捜部、医薬品卸3社を起訴
令和3年6月
 東京地裁、医薬品卸3社に対し罰金各2億5000万円(3社合計7億5000万円)の罰金刑を科す有罪判決。(同年7月確定。)

令和4年2月
 公取委、A社に対し約1億7000万円、T社に対し約1億6000万円、S社に対し約8600万円(3社合計4.2億円)の課徴金納付命令(見込)。同時に排除措置命令も発令(見込)。

 独禁法違反事件についての刑事裁判は、事実上、公取委が東京地検特捜部に刑事告発することにより始まります。
 このとき、公取委は、判決により罰金刑の金額が定まるまでの間、課徴金納付命令や排除措置命令を行わない(待機する)ことが多いようです。
 その理由は、おそらく、独禁法上、罰金刑が科された会社に対しさらに課徴金を課す場合には、罰金刑の金額の2分の1を控除(減額)しなければならないと定められているからです(独禁法7条の7、7条の9)。

 医薬品談合事件の実例では、A社・T社・S社それぞれについて、独禁法の定める綿密な課徴金額計算を行い、次のとおり、本来の課徴金額を算出した上で、それぞれ罰金の2分の1の金額を控除するという計算がなされたのではないかと推測されます。

<罰金額と課徴金額の調整(推測)>

  本来の課徴金額 減額(罰金の2分の1) 課徴金納付命令
A社 2億9500万円 -1億2500万円 1億7000万円
T社 2億8500万円 -1億2500万円 1億6000万円
S社 2億1100万円 -1億2500万円 8600万円

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
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