新型コロナと雇用調整

コラムコーナーにおこし頂きありがとうございます。
本コーナーでは、リスクマネジメントをテーマに、当社コンサルタントがそれぞれの専門分野について、リスクのトレンド、法規制の改正、といった情報を発信しておりますのでぜひご参照ください。

1 はじめに

新型コロナウイルス感染症の影響により、国内外の企業活動に多大な影響が出ています。
本稿をお読みの事業者の方々は、緊急事態宣言を受け、従業員の在宅勤務などの当面の対策を終えられていることと思います。
営業を休止(休業)し、助成金などにより事業継続を図っておられる方もいるかもしれません。
今後、新型コロナの影響が長引いた場合には、休業や従業員の解雇などによる雇用調整の問題が本格化するものと思われます。
委託先や取引先との契約を終了したい場面も増えるでしょう。
しかし、緊急事態宣言下であるからといって、雇用調整や契約終了が無制限に行えるわけではありません。
労働法、独禁法、下請法等の規制を理解し、これらに抵触しないように注意する必要があります。
本稿では、雇用調整や契約終了に関する法務リスクについて、ケースごとに解説します。
(令和2年5月10日時点の制度を前提とする記事であることをお断りします。)

2 休業

(1)
事業者の方々が、雇用調整の方法として真っ先に検討するべきは、「休業」です。
具体的には、事業の全部または一部を休止し、従業員に自宅待機を命じて、給与を支払わないことです。
休業する場合、一般に、給与の代わりに「休業手当」を支給することになります。
(2)
ここで、「不可抗力による休業の場合には休業手当を支給しなくてよい。」という話を聞いたことがある方もいるのではないかと思います。
確かに、厚労省は「不可抗力」による休業の場合は、休業手当を支給する必要はないとしています。
しかし、「不可抗力」と言えるかどうかは、売上減少の程度、現預金の残高、従業員の在宅勤務の可否等の総合考慮により判断するべき問題です。
新型コロナによる休業であれば一律に『不可抗力』に当たるわけではありません。
筆者の意見としては、確実に「不可抗力」だと判断できるような場面はほとんど存在せず、休業手当の不支給には法務リスクが常在すると言わざるを得ません。
休業手当は、支払うべきです。
(3)
なお、休業手当を支払う場合、国の雇用調整助成金を受けられます。
非常に使いやすい助成金です。
従業員の解雇等をせずに休業手当を支給する事業者に対しては、中小企業であれば休業手当の90%の金額、大企業でも75%の金額の助成金を受けられます。
都道府県知事からの休業要請による休業の場合には、100%の助成金を受けられることもあります。
つまり、事業者は、わずかの自己負担(場合によっては負担ゼロ)により、休業手当を支払うことができるのです。
この意味でも、休業手当はやはり支払うべきであると言えます。

3 従業員の解雇・雇止め

休業などの穏当な方策では経営危機を乗り切れない場合には、従業員の解雇や雇止めを検討することになります。
ニュースでは、世界的な大企業が大規模な解雇を実施した例が報道されています。
しかし、労働法上、解雇や雇止めが認められるための法的要件は、非常に厳しいものです。
その要件は、新型コロナウイルスによる昨今の経済状況下においても、全く緩和されていません。安易な解雇・雇止めには、重い訴訟リスクがあると言わざるを得ません。
昨今は社会的関心も高まっているため、レピュテーショナルリスク(風評被害)も深刻です。
例えば、コロナによる売上減少を理由に乗務員を解雇しようとしたタクシー会社が、社会的批判を受け、解雇を撤回した例が報道されています。
もし、解雇や雇止めを検討する場合には、労働法上の要件(いわゆる「整理解雇4要件」)をよく理解して、慎重に行わなければなりません。
現在の新型コロナ蔓延の状況を踏まえた一般論としては、「2」で述べた休業(国の雇用調整助成金を受給して、従業員に休業手当を支給する方法)により、事業を維持できる場合には、従業員の解雇は控えるべきである、ということが言えると思います。
とはいえ、会社が倒産の危機に瀕しているような場面では、整理解雇を実施するほかないということもあるでしょう。
そこで、次回の記事では、整理解雇が認められるための4要件について、詳細に説明する予定です。

4 取引先との契約終了

新型コロナウイルス蔓延の状況下では、取引先との契約関係に様々な問題が生じます。ここでは、売上減少に対応し、経費を削減するために、業務委託先や下請負先との取引を終了する場面における法務リスクについて、説明します。
民法上、委任契約や請負契約は、原則として、解除することが可能です(民法641条、651条1項)。
ただし、解除により取引先が損害を被る場合には、適切な金額を支払って、損害を賠償する必要があります(民法641条、651条2項)。
また、相当期間にわたって継続してきた契約を解除する場合は、特に注意が必要です。取引先が当該取引のために相当程度の資本を投下しているなどの事情次第では、「継続的契約」と評価され、正当な理由等がなければ解除できない(解除は無効)とされてしまう場合があります。
発注者が優越的地位を濫用していると判断された場合には、独禁法や下請法上の問題を生じることもあり得ます。
以上のような法務リスクの判断には諸般の事情の総合考慮が必要です。疑わしい場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

5 最後に

本稿をお読みの方々の中には、今回、会社の存続や事業の継続について、初めて(あるいは久々に)真剣に考えたという方も多いのではないでしょうか。
もしかしたら、この危機的状況は、日々の経営の中で忘れてしまいがちな「会社の存在意義」を見つめなおす、良い機会かもしれません。
堂々と、適法に、この危機を乗り切って、「コロナ後」の経営に備えましょう。


コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

 

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