新型コロナと整理解雇(人員削減)

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本コーナーでは、リスクマネジメントをテーマに、当社コンサルタントがそれぞれの専門分野について、リスクのトレンド、法規制の改正、といった情報を発信しておりますのでぜひご参照ください。

1 はじめに

 本稿執筆の時点(令和2年5月24日)では、緊急事態宣言は解除される見込みとなっていますが、解除後の経済の先行きは不透明です。
 本稿をお読みの方のなかには、倒産回避や事業縮小のため、やむを得ず、人員削減、すなわち「整理解雇」を検討している方もいることでしょう。
 そこで、整理解雇を行う場合の基本ルールや法務リスクについて、解説します。
 (令和2年5月24日時点の制度を前提とする記事であることをお断りします。)


2 整理解雇の4要件

 長年にわたる裁判例の蓄積により、実務上、整理解雇が有効と認められるための要件が確立されています。「整理解雇の4要件」です。
 4要件の言い回しは様々ですが、筆者の考えでは、整理解雇が有効と認められるためには

① 人員削減の必要性があること
② 経費削減の努力を行っていること
③ 解雇対象者の選定方法が合理的であること
④ 手続きが妥当であること

の4点が必要です。


3 ①人員削減の必要性があること

 人員削減の必要性があることは、整理解雇の出発点です。これがない場合、私は整理解雇をやめるよう助言します。
 簡単な目安を示します。人員を削減したい会社は、大きく分けて次の3つに分類できます。

ア 現在、倒産の危機に瀕しており、緊急に人員整理を行う必要がある会社
イ 将来、倒産の危機に陥る可能性があり、それを避けるために、いまから企業体質の改善・強化を行う必要がある会社
ウ 倒産の危機に陥る危険は当面ないが、採算性の向上などのために余剰人員を整理したい会社

 私見では、最低限、「イ」の段階になければ、人員削減の必要性は認められません。

 たとえば、国の雇用調整助成金や持続化給付金を受給する等して緊急事態宣言を乗り切ることができた会社は、直ちに倒産危機に陥る可能性があるとは言えず、 「イ」には分類できないでしょう。

しかし、緊急事態宣言が解消された後も売上が戻らなければ、倒産危機に陥る可能性が出てきます。元々経営状況の良くなかった会社が、緊急事態宣言をきっかけに、急激に倒産危機に陥るということもあるでしょう、
 そのような場合、「ア」や「イ」の段階となり、人員削減の必要性が認められることもあるでしょう。


4 ②経費削減の努力をしたこと

 人員削減の必要性があっても、会社が経費削減の努力をしていない場合、整理解雇は無効となります。
 逆に言えば、整理解雇を行うためには、その前に、会社の経費を削減する必要があります。
 「経費削減」とは例えば次のような事項が考えられます。自社の事情に即して考え、経費削減の余地がないか、検討してみてください。

 ・広告費・交通費・交際費(いわゆる3K)の削減
    ↓
 ・時間外労働の中止、新規採用の中止
    ↓
 ・昇給の停止、賞与の支給の中止
    ↓
 ・配置転換、出向
    ↓
 ・労働時間の短縮(ワークシェアリング、一時帰休)
    ↓
 ・非正規社員の労働契約の解消
    ↓
 ・希望退職の募集
    ↓
 ・整理解雇


5 ③解雇対象者の選定方法が合理的であること

 整理解雇の場合、だれを解雇するかを恣意的に決めることはできません。合理的な選定基準により、適切に選定しなければなりません。
 選定にあたっては、例えば、能力(技能)、人事考課、出勤率(遅刻・早退・欠勤)、資格、注意・懲戒の有無といった事項を考慮する必要があります。
 それ以外に、被害度(解雇により生活が脅かされる程度)も重要です。例えば他の収入源があるかどうかや、共働きかどうか、扶養家族の人数などを考慮する必要があります。
 選定の過程を書面に残しておくことも重要です。例えば、どのような事項を検討したかや、他の候補者との比較検討の結果などを、書面に残しておきます。
これは、後日、解雇された者から訴訟を起こされたときに、「会社が解雇対象者を合理的な方法で選定したこと」の貴重な証拠となります。


6 ④手続が適正であること

 全従業員に対する全体説明と、解雇対象者に対する個別説明の両方が必要です。
 ①人員整理の必要性、②経費削減の努力、③解雇者選定の合理性などについて、書面を用いて説明し、整理解雇について従業員に納得してもらえるよう努力します。
そのためには、会社の財務状況や解雇者の選定基準などを、ある程度、開示する必要があるでしょう。
 労動組合がある場合には、組合説明も重要です。


7 まとめ

 整理解雇は、整理解雇4要件に従いましょう。
 まず、①人員整理の必要性を見極め、整理解雇を実施するか否かを正しく判断しましょう。
 整理解雇をする場合には、②経費削減の努力を行い、③解雇者の選定は合理的な方法で行い、④従業員説明などの適正手続を尽くしましょう。


コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

 

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