下請法、増え続ける摘発

社会常識としての独占禁止法㉑
執筆:弁護士  多田 幸生

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。今回は「下請法」について、お話しします。

1 下請法とは

下請法は独占禁止法の特別法です。
具体的には、独占禁止法の「優越的地位の濫用」規制に関する特別法です。
下請負取引においては、親事業者(発注者)が下請事業者に対し優越的地位にあることが比較的明確です。そこで、下請法という法を特別に制定し、親事業者(発注者)から下請事業者に行ってはならない行為の類型を列挙しました。
具体的には、下請代金の不当な減額(買いたたき)、下請代金の不当な支払遅延、不当な返品といった行為です。

大手企業による下請法違反が摘発されることも少なくありません。2021年3月には自動車製造大手による下請法違反が大きく報道されました。

日本経済新聞「下請法違反でマツダに勧告、5000万円不当徴収 公取委」


2 高まる下請法違反リスク ~増え続ける摘発件数~

近年、公正取引委員会は下請法違反の摘発に力を入れています。
2021年6月2日に公正取引委員会が公表したところによると、2020年度の指導・勧告件数は8111件であり、13年連続で過去最多を更新しました。

公正取引委員会
(令和3年6月2日)令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組
下請法違反の摘発リスクが高まっていることは明らかです。


3 摘発増加の要因は何か

なぜ、公正取引委員会による下請法違反の摘発件数が毎年増加しているのでしょうか?
筆者が思うに、その理由は、①近年の公取委の調査体制の充実に加え、②下請法違反は書面調査により比較的容易に摘発できること、が要因です。

まず①ですが、公正取引委員会は、かつては「吠えない番犬」と揶揄されるほど動きの鈍い機関として有名でしたが、近年は活発に活動し、「優越的地位の濫用」分野を中心に、独禁法の適用範囲を日々拡大し続けています。
このことは、本コラムでも何回かお伝えしてきました。
①社会常識としての独占禁止法 「社会常識としての独占禁止法」

公正取引委員会は、近時、積極的に法曹資格者を採用する等して、調査体制を拡充しています。
調査人員の多くは「優越的地位の濫用」の分野に振り分けられ、とりわけ、下請法違反の分野には多くの人員が割かれているのではないかと推察されます。

次に②ですが、公正取引委員会にとって、下請法違反は摘発が比較的容易な類型です。
②社会常識としての独占禁止法 「~膨張する「優越的地位の濫用」の要点~」

下請取引では契約書作成が法令上義務付けられていますので、必ず、契約書の書面が存在します。
(もし契約書がない場合、ないこと自体が下請法違反となります。)
この契約書に、元請事業者はしばしば、自社に有利な条件を記載します。残念ながら、迂闊(うかつ)な記載が少なくありません。
契約書を一読するだけで下請法違反の存在を立証できるということも少なくない、と言われています。

こうして、
①下請法違反の分野に多く振り分けられた調査人員が、
②下請事業者から提出を受けた契約書(下請契約書)の書面調査に注力するようになったために、
下請法違反の摘発が増加し、摘発件数が13年連続で過去最高を更新したものと推察します。



4 下請法違反を防ぐ方策

下請法が「違反行為」として列挙する行為は、親事業者(発注者)が優越的な地位を濫用して、下請事業者に対し不利益を課す行為です。
平たい言葉で言うと、「下請けいじめ」にあたる行為は、すべて、下請法に列挙されていると理解して、概ね差し支えありません。

したがって、下請法違反を防ぐためには、企業が独禁法(下請法)をよく理解し、法的素養を高め、「その行為が下請けいじめに当たるかどうか」を自社(法務部・顧問弁護士等)で判断できるようになる必要があります。

「3」で述べたように、公正取引委員会は契約書の書面調査を重視していると思われます。
なので、即効性のある方策としては、自社が下請事業者との間で締結している下請負契約書の内容のなかに、独禁法や下請法に違反する条項がないかどうか、再点検するのが良いでしょう。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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