「私的独占」

社会常識としての独占禁止法
執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。  今回は「私的独占」を取り上げます。

1 私的独占とは

 私的独占は、独占禁止法が禁止する行為の一つです。
簡単に言うと、
「事業者は、不当な手段によって市場を独占したり、独占状態を維持・強化してはならない。」
というルールです。
(正確な条文は、独占禁止法2条5項をお読みください)
 少数の事業者だけで、ある市場を独占、寡占している状態になると、競争が有効に機能しにくくなります。
そこで、独占禁止法は、不当な手段によって、市場を独占したり、独占の状態を維持・強化しようとする行為を禁止しています。
 私的独占は、公正取引委員会による排除措置命令の対象となり、課徴金の納付が命じられます。
裁判所から差止めを受ける可能性もあります。
 刑事上は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。れっきとした犯罪です。

 

2 私的独占についてのよくある誤解

 私的独占は誤解されがちなルール(禁止行為)です。
たとえば、「少数の事業者だけで、ある市場を独占、寡占すること自体が違法である」というのは、誤解です。
 確かに、少数の事業者だけで、ある市場を独占、寡占している状態になると、競争が有効に機能しにくくなります。
 しかしながら、自由競争社会においては、ある事業者が、良質・廉価な商品を提供し続けた結果として、つまり、正当な競争の結果として、市場を独占するに至ることがしばしばあります。
これをすべて違法とするのでは、自由競争が成り立ちません。
 独禁法が禁止するのは、あくまで、不当な行為による私的独占です。


3 私的独占の参考例

 私的独占の具体的なイメージをつかんでおきましょう。 以下は、特に有名な事件です。不当な抱き合わせ販売による市場独占の参考例として、公取委のHPに記載されています。

【市場シェア】
X社:表計算ソフトの市場シェア第1位
Y社:ワープロソフトの市場シェア第1位  

【行為】
 X社は,ワープロソフトの市場シェアを高めるために、パソコン製造販売業者に対し,X社の表計算ソフトとワープロソフトを併せてパソコン本体に搭載して出荷する契約を受け入れさせた。
その結果、パソコン製造販売業者はX社の表計算ソフトとワープロソフトを併せて搭載したパソコンを発売するようになり、X社は、ワープロソフトの市場でもシェア第1位を占めるに至った。

※ 勧告審決平10・12・14。処分時の根拠法は不公正な取引方法(抱き合わせ販売)でしたが、公取委において私的独占の参考例とされています。


4 「独占」の目安

 私的独占の行為者は、市場支配力を有する事業者であることがほとんどです。
この点に関連し、公正取引委員会は、市場シェア50%という目安を定め、行為者の市場シェアが50%を超える場合、私的独占に該当するか否かの審査を優先的に実施するとしています。※

※「排除型」私的独占の場合。


5 「排除型」私的独占と「支配型」私的独占

 独禁法が禁止する私的独占には、「排除型」と「支配型」の2類型が存在します。

(1)排除型私的独占

 「排除型」の私的独占とは、事業者が、不当な低価格販売、差別価格による販売などの不当な手段を用いて、競争相手の事業活動を継続困難にしたり、新規参入者を妨害して、市場を独占しようとする行為を言います。
 「3」で挙げた具体例は、この排除型私的独占の例です。

(2)支配型私的独占

 「支配型」の私的独占とは、事業者が、株式の取得、役員の派遣などの手段により、他の事業者の事業活動に関する意思決定を拘束し、自己の意思に従わせ、市場を独占しようとする行為を言います。
 支配型の私的独占は、排除型と比べると件数は少ないですが、違反行為者は支配している会社の株式を手放すよう命じられるなど、厳しい排除措置命令を受けることがあります(勧告審決昭47・9・18)。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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