~脱炭素化・SDGsがカルテル違反とならないために~

社会常識としての独占禁止法
執筆:弁護士  多田 幸生

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、脱炭素化・SDGsのための企業連携がカルテルとなる場合があることをご紹介し、その要点(当面どのように対応するべきか)について説明します。

1 カルテルとは

 「カルテル」とは、同一産業の企業同士が、互いの利益のために協議して,価格、品質、数量の維持や引き上げ、生産の制限、販路の制定などの協定を結ぶことをいいます。
 このような行為は、企業による不当な市場支配につながり、消費者の利益を損ない、ひいては経済の健全な発展を阻害します。そこで、独占禁止法はカルテル行為を原則として禁止しています。
 刑事上は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。れっきとした犯罪です。

2 環境問題とカルテル

 昨今は、環境問題に対する社会的な意識の高まりを受け、

「環境問題の解決のためであれば、カルテルが許されるべき場合があるのではないか?」

という問題提起がなされることがあります。

 どういうことかと言いますと、「カルテル」規制の一つとして、商品の「品質」等についての企業連携は許さない、というものがあります。
 環境問題に取り組むときには、なるべく業界全体として取り組み、例えば規格や水準などを統一した方が、効果的かつ経済的であることは言うまでもありません。
 しかしながら、形式的には「品質」に関するカルテルに(場合によっては「価格」等に関するカルテルにも)該当してしまいます。
 なので、「環境問題の解決のためであれば、一定の範囲で許されるべきではないか?」という問題提起がなされるわけです。

 公正取引委員会は、この点につき、柔軟な立場を取っています。

 たとえば、家電等のリサイクル活動については、公正取引委員会は、家電・機械メーカーが共同でリサイクル活動に取り組むこと(カルテル)を一定の限度で認め、いわゆる「リサイクル・ガイドライン」を発表しています。


3 脱炭素化・SDGsとカルテル

 昨今は脱炭素化・SDGsに対する社会的な意識が高まっています。
 温暖化ガスの排出量の多い業界(例えば鉄鋼、化学工業、エネルギー関係)は、業界単位で、脱炭素に向けた施策に取り組む必要があります。

 新しい技術の開発や設備投資のためには、事業統合や共同出資が効果的な場合もあります。他社への製造委託(OEM)も選択肢となります。同一業界における複数企業の連携が不可欠です。

 このような観点から、脱炭素化・SDGsのための取り組みについては、形式的にカルテルに該当する場合でも、一定の範囲で許される(独禁法違反とならない)ものと考えられます。

 令和4年3月16日の報道によりますと、政府は、脱炭素化に向けた取り組みについて、独禁法の適用緩和や基準明確化などの必要性を検討しているとのことです。

 将来的には、公正取引委員会が、SDGsについて(あるいは、より広く、環境保全活動全般について)、カルテル規制が免除される基準などを定めるガイドラインを発表するものと予想されます。


4 当面どのように考えるべきか?

 上記の考えにより、現在でも、脱炭素化・SDGsに向けた企業連携は一定の範囲で許容されると思われます。

 ガイドラインがないので、その基準は明確ではありませんが、目的(脱炭素・SDGs)と手段(同一業界の企業の連携)の関係により決まると思われます。当面は、次のように考えればよろしいのではないでしょうか(私見です。)。

① 規制よりも高い目標を自主的に掲げ、その目的を実現するために必要な企業連携をすることは、連携は許される。
② 形式的にSDGs等の目標を掲げても、企業連携なしにその目的を実現できる場合には、連携は許されない。

 具体的な判断が必要な場合は、以前にご紹介した「公正取引委員会への事前相談制度」を活用し、公取委のお墨付きを得てから施策を実施することをお勧めします。

 なお、以上とは全く別の問題として、SDGs等のための技術開発を実質的に制限すような企業連携には何らの正当性もなく、許される余地がないことは、言うまでもありません。

 欧州では、令和3年7月、フォルクスワーゲン社、BMW社など5社が、形式的にSDGsを標榜しつつ、実質的には各社の技術水準を低レベルに留めるための合意をしたという事件について、多額の制裁金が課された例があります。

 当然の結論と言えましょう。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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