社内リニエンシー制度導入のすすめ

社会常識としての独占禁止法62

執筆:弁護士  多田 幸生

 談合・カルテル事件において、巨額の課徴金を回避する唯一の方法は、リニエンシー(自主申告)です。
 電力カルテル事件では、リニエンシーして課徴金を免れた関西電力は、本来は1000億円超の課徴金を課されるはずだったと報じられています。

 課徴金を免除されるためのリニエンシーは、公正取引委員会が調査開始する「前」に、行う必要があります。
 すなわち、会社は、公取委の調査を受ける前に、自力で、談合・カルテル事件を発見する必要があります。
 しかし、談合やカルテルは秘匿性の高い犯罪です。会社の内部監査部門が調査しても、自力で談合やカルテルを発見することは難しいのが実情です。

 では、どうすれば、会社は自分で談合・カルテル事件を発見することができるでしょうか?
 私がおすすめするのは「社内リニエンシー制度」です。

2 社内リニエンシー制度とは

 社内リニエンシー制度とは、リニエンシー制度の会社版です。最近、導入例が増えています。例えば、関西電力と中部電力は、電力カルテル事件後の記者会見で、それぞれ導入を発表しています。

 談合やカルテルに関与した営業員は、会社から懲戒処分を受けます。刑事犯罪ゆえ処分は重く、懲戒解雇になることもしばしばです。
 その懲戒処分を、社内リニエンシー制度では減免します。営業員が、談合やカルテルを会社にリニエンシー(自主申告)すれば、懲戒処分を免除したり、軽減したりするわけです。
 社内リニエンシー制度は、秘匿性の高い犯罪である談合やカルテルを会社が自力で発見するために、非常に有用と思われます。

 社内リニエンシー制度を導入する場合、就業規則や懲罰規定などに条項を設け、社内リニエンシーの要件や効果を定める必要があります。
 制度設計は様々な形が考えられます。
 例えば、リニエンシー対象なる行為の範囲については、①談合・カルテルなどの重い違反行為に限る形、②独禁法に平仄を合わせ、もう少し広い違反行為を対象にする形、③より広く、独禁法違反行為全般を対象にする形、などが考えられます。
 自主申告の時期の違いにより、懲戒処分を「免除」するか「軽減」にとどめるかの違いを設けることも考えられます。
 もっとも、社内リニエンシー制度の場合、独禁法のリニエンシー制度ほど複雑にする必要性はないと思われます。ごくシンプルに、調査開始「前」の自主申告に対する「免除」だけを定めるということでも良いでしょう。

<懲罰規定の条項例>

第●条(自主申告)  独占禁止法に違反する行為を行った従業員が、当該違反行為の調査を会社が開始する前に、当該違法行為にかかる事実の報告及び資料の提出を行った場合には、これを懲戒しない。



コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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