公取委の「注意」と「警告」について

社会常識としての独占禁止法63

今回は、独禁法違反が疑われる場合に公取委がする「注意」と「警告」についてお話します。

画像出典:公正取引委員会「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について(事業者等向け説明資料)」
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/shinsagaiyou.html


1 公取委の行政調査や排除措置命令との関係

 公正取引委員会は、独占禁止法に違反する行為が行われている疑いがある場合に、事業者への立入検査、供述聴取(事情聴取)などの調査を行います(行政調査)。
 調査の結果、独禁法に違反する行為が判明した場合には、公取委は違反事業者に対し「排除措置命令」や「課徴金納付命令」を下します。
 しかしながら、独禁法違反行為は密室性が高いため、十分な証拠が手に入らない等の理由により、排除措置命令や課徴金納付命令などの法的措置を採るに足らないことがしばしばあります。
そのような場合に発出されるのが、「警告」と「調査」です。


2 警告と注意

 公取委は、排除措置命令等の法的措置を採るに足る証拠を得るには至らなかったけれど、「独占禁止法違反の疑いがあるとき」には、事業者に対して警告を行い、是正措置を採るよう指導します。これが「警告」です。

また、公取委は、違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったけれど、独占禁止法違反につながるおそれのある行為がみられた場合には、未然防止を図る観点から注意を行います。これが「注意」です。

 事態の深刻さの観点から警告と注意の違いをまとめると、次のようになります。

①警告は、独禁法違反を認定するには証拠が不充分だが、独禁法違反の疑いがある。
②注意は、独禁法違反の疑いを認定するには証拠が不十分だが、将来、違反につながるおそれがある。


3 警告の実務

 警告は、違反認定でこそありませんが、「独禁法違反の疑いがある」との認定であり、是正措置を採るよう促されるのですから、重い手続です。
 そのため、警告を受ける事業者に対しては、「公正取引委員会の審査に関する規則」に基づ手続保障がなされており、事業者は、事前に意見を述べたり、証拠を提出することができます(事前手続)。
 警告は文書によりなされます。
 警告は、全件、公取委により公表されます。
 警告の件数は、年に数件です。令和4年度は0件でした。
注意(年間100件弱)と比べると、警告は稀な手続と言えます。その分、もし、自社に対する警告が発された場合は、事態を深刻に受け止める必要があります。



3 注意の実務

 「注意」は「独占禁止法違反につながるおそれのある行為」を認定し、事業者に注意を発する手続です。
 注意の手続ですが、嫌疑の程度が相対的に低いため、警告のような事前手続はありません。
 注意の方法も口頭とされています。電話口で注意の内容を読み上げる、といった方法が採られます。
 注意は、全件公表でこそありませんが、しばしば公表されます。
 公取委は、「競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案であり、かつ、関係事業者から公表する旨の了解を得た場合又は違反被疑の対象となった事業者が公表を望む場合」に公表することにしています。
 注意の件数は年間100件弱となっています。令和4年度は83件でした。



コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

→→プロフィールを見る