再販売価格の拘束

社会常識としての独占禁止法⑳
執筆:弁護士  多田 幸生

このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は「再販売価格の拘束」取り上げます。

1  再販売価格の拘束とは?

「再販売価格の拘束」は独占禁止法が禁止する行為(不公正な取引方法)の一つです。簡単に言うと、
「メーカーは、自社の商品を小売業者等が販売する場合の小売価格等を決定し、小売業者等にその価格を守らせるような行為をしてはならない。」
というルールです。
(※ 正確な条文は独禁法2条9項4をご覧ください。」)

自由競争経済の下では、小売業者は商品の小売価格を自ら決定できてしかるべきです。
しかしながら、人気商品やブランド品のメーカーが、小売の値引き競争により価格が崩れ、ブランド力が低下することを恐れ、小売業者に対し、小売価格を決定してこれを守らせようとすることがしばしばあります。そのような行為が価格競争を阻害し、消費者に被害を及ぼすことは明らかです。
そこで、独占禁止法は原則として「再販売価格の拘束」を禁止しています。

「再販売価格の拘束」は、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令の対象となり、また、裁判所から差止めを受ける可能性があります。
なお、書籍、雑誌、新聞、音楽CDなどの著作物に関しては、例外的に、再販売価格を拘束することが許されています。これらについてはいずれ詳しく取り上げます。



2 具体例

公正取引委員会のHPには、スポーツ用品大手のA社が犯した再販売価格の拘束の具体例が掲載されています。
A社は、「美脚・ヒップアップ」などの美容効果のあるスポーツシューズ「E」を製造・販売したところ、大ヒット商品となっていました。
この商品Eの小売価格が下落するのを防ぐために、A社は、スポーツシューズの小売業者に対し、A社が定めた値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請しました。
そして、この要請に従わない場合には商品Eの出荷を停止し、在庫を返品させるなどと示唆しました。
その結果、商品Eは、どの小売店に行ってもA社の希望価格以上の値段でしか販売されないこととなりました。
価格競争が阻害され、一般消費者が被害を被ったわけです。

公正取引委員会による調査の結果、A社の行為は「再販売価格の拘束」に当たると認定され、排除措置命令が下されました(平成24年3月2日決定)。



3 希望小売価格を定めるだけでもアウトなのか?

「再販売価格の拘束」との関係で最も質問が多いのは、「希望小売価格を定めるだけでもアウトなのか?」という質問です。
結論を言うと、希望小売価格を定めるだけなら、セーフです。
その価格を小売業者に守らせるための行為をしなければ、問題ありません。
しかし、多くの場合、メーカーは、小売業者に価格を守らせるための行為を行います。
「2」で挙げたA社の例では、「要請に従わない場合には商品Eの出荷を停止する」と示唆する行為が、違反行為に当たるわけです。
出荷の停止でなくても、例えば出荷量を減らすとか、卸売価格を値上げするといったことを示唆する行為も、違反行為に当たると思われます。



4 事業者の留意点

「1」にも書きましたが、「再販売価格の拘束」は、ヒット商品やブランド力のある商品を製造・販売するメーカーが犯しがちな独禁法違反といえます。
また、小売店等に対する要請行為は、各事業所の営業部門などの判断により行われ、本社は具体的な要請行為を把握していないというケースの方が多いと思われます。
メーカーは、自社のヒット商品やブランド力のある商品について、希望小売価格を決定している場合には、現場の営業部門に対し、誤って「再販売価格の拘束」に当たる行為を行ってしまうことがないよう指導する必要があります。
また、小売業者に対し、「希望小売価格はあくまで参考価格であり、実際の販売価格は自由に決定できる」旨を明示するのが望ましいことは、言うまでもありません。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada
会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する
 

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