ヒット商品の落とし穴~「再販売価格の拘束」~  

社会常識としての独占禁止法
執筆:弁護士  多田 幸生

 

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は商品がヒットしたときに犯してしまいがちな独禁法違反である「再販売価格の拘束」についてお話ししします。


1 再販売価格の拘束とは?

「再販売価格の拘束」は独占禁止法が禁止する行為(不公正な取引方法)の一つです。簡単に言うと、

「メーカーは、自社の商品を小売業者等が販売する場合の小売価格等を決定し、小売業者等にその価格を守らせるような行為をしてはならない。」

というルールです。

※ 正確な条文は独禁法2条9項4号をご覧ください。」

自由競争経済の下では、小売業者は商品の小売価格を自ら決定できてしかるべきです。
しかしながら、人気商品やブランド品のメーカーが、小売の値引き競争により価格が崩れ、ブランド力が低下することを恐れ、小売業者に対し、小売価格を決定してこれを守らせようとすることがしばしばあります。そのような行為が価格競争を阻害し、消費者に被害を及ぼすことは明らかです。
そこで、独占禁止法は原則として「再販売価格の拘束」を禁止しています。

「再販売価格の拘束」は、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令の対象となり、また、裁判所から差止めを受ける可能性があります。

なお、書籍、雑誌、新聞、音楽CDなどの著作物に関しては、例外的に、再販売価格を拘束することが許されています。これらについてはいずれ詳しく取り上げます。


2 商品がヒットしたときは要注意

「再販売価格の拘束」は、ヒット商品やブランド商品について犯しがちな独禁法違反です。

以前のコラムでは、「美脚・ヒップアップ」の美容効果があるとして大ヒットしていたスポーツシューズ「E」についての再販売価格の拘束の例をご紹介しました。

 令和4年3月29日には、著名な豚骨ラーメン店が、自社のカップ麺や乾麺を取り扱うスーパーマーケットなどの小売業者に対し、値下げをしないように圧力をかけた疑いがあるとして、公正取引委員会が調査していると報道されました。

 どんなヒット商品にも、終わりがあります。

 会社としては、「少しでも長い間売れてほしい」「値崩れしないでほしい」と願うあまり、再販売価格の拘束に手を染めてしまうものと思われます。

 再販売価格の拘束は、必ずしも大企業による独禁法違反ではありません。

 むしろ、中小企業や新興企業の方が、独禁法違反を認識せずに、再販売価格の拘束に及びがち、と言えるかもしれません。


3 どのような行為が「拘束」に当たるのか

たとえばメーカーが「メーカー希望小売価格」や「標準小売価格」を設定していても、販売業者が実売価格を自由に決定できるのであれば、再販売価格の「拘束」があるとは言えません。

その価格を守らせるための拘束行為があって初めて、再販売価格の「拘束」となります。

では、どのような行為が「拘束」に当たるのでしょうか?

例えば、小売店に対し、「希望小売価格を守らない場合には出荷を停止する」と示唆する行為は、わかりやすい拘束行為です。

そこまで露骨な行為でなくても、次のような行為は要注意です。

  • 営業担当者による小売店の巡回
  • 試買による価格・転売状況の確認
  • 秘密番号制による転売経路の確認

これらは、小売店が商品をいくらで再販売しているかの調査行為です。
調査するだけなら、本来、拘束行為に当たりません。
しかし、その調査が小売店に対する監視ともいうべき実態となっている場合には、小売店は圧力を感じ、安売りをためらうようになります。
それにより、希望小売価格が遵守されるようになった場合には、「メーカーの監視により、再販売価格の拘束が行われた」と評価されてしまうわけです。


4 事業者の留意点

ヒット商品の値崩れ防止は、どんな会社でも考えることです。
小売店の巡回や再販売価格の調査も、多くの会社が行っているでしょう。
調査は構いません。
しかし、調査を価格維持の手段としてはいけません。
事業者としては「調査により希望小売価格が維持されたらアウト」ということをよく理解したうえで、小売店に対する圧力とならない態様による調査を実施すればよいでしょう。

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

→→プロフィールを見る