インボイスは独禁法違反に要注意!!!②

社会常識としての独占禁止法
執筆:弁護士  多田 幸生

  

前回に引き続き、インボイス制度(2023年10月1日から実施予定)により独禁法(下請法)の違反事例が急増するのではないかと危惧されていることについて、お話しします。

参 考

公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年3月8日改正版)



1 前回のおさらい

 インボイス制度が始まると、次の6つの独禁法懸念事象が頻発すると予想されています。今回は、そのうち②~⑥についてお話します。

  1. 取引相手が、免税事業者に対し、(増加税額分に相当する)代金減額を要請(強制)する。
  2. 取引相手が、免税事業者が取引価格の引き下げに応じないことを理由に、商品(役務の成果物)の受領を拒否したり、受領した商品等を返品する。
  3. 取引相手が、免税事業者に対し、(増加税額分に相当する)協賛金や役務の負担などを要請(強制)する。
  4. 取引相手が、免税事業者に対し、(増加税額分に相当する)商品購入を要請(強制)する。
  5. 取引相手が、免税事業者との取引を停止する(免税事業者ではない業者に乗り換える)。
  6. 取引相手が、免税事業者に対し、登録事業者になるよう要請(強制)する。


2 ②商品(役務)の受領拒否・返品

たとえば、A社がB社に商品を発注した後で、B社が免税事業者であることが判明し、商品の受け取りを拒否する事態が予想されます。
A社が、B社が免税事業者であることを理由に、商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用として問題となります。
同様に、A社が、すでに受領した商品を返品することは、B社にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他正当な事由がない場合には、優越的地位の濫用として問題となります。
以上のことは、下請法の適用されない取引であっても変わりませんので、注意が必要です。
もちろん、下請法取引の場合は、下請法第4条第1項第1号又は第4号で禁止されている受領拒否又は返品として問題となります。
しかし、下請法の適用されない取引であっても、優越的地位の濫用として、独禁法に違反するおそれがあるということです。


3 ③(増加税額分に相当する)協賛金や役務の負担などの要請(強制)

 たとえば、A社が、免税事業者であるB社(仕入先)に対し、インボイス制度開始後も取引価格を変えない(据置き)ことを認めるが、その代わりに、別途、協賛金や販売促進費などの名目で金員を支払うよう要求する事態が予想されます。
 金員の支払いでなく、発注内容に含まれていない役務をさせたり、なんらかの経済上の利益を無償で提供するよう要求する事態も予想されます。
こういった行為は、いずれも、優越的地位の濫用として問題となります。②同様、下請法の適用されない取引であっても問題になります。


4 ④購入・利用強制

 たとえば、A社が、免税事業者であるB社(仕入先)に対し、インボイス制度開始後も取引価格を変えない(据置き)ことを認めるが、その代わりに、別途、A社の商品・役務を購入・利用するよう要求する事態が予想されます。
 このようなA社の行為は、優越的地位の濫用として問題となります。②同様、下請法の適用されない取引であっても問題になります。
 ④は、特に、建設業において問題になる可能性があります。
 たとえば、元請負人Aが、免税事業者である下請負人Bと下請契約を締結した後に、Bに対し、使用資材や機械器具を指定し、購入させて、Bの利益を害した場合には、建設業法第19条の4の「不当な使用資材等の購入強制の禁止」の規定に違反する行為として問題となります。


5 ⑤免税事業者であることを理由とする取引の停止(取引先の変更)

 最も悩ましい問題です。
 自由経済ですから、事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由です。
ある事業者が、免税事業者との取引を停止し、取引先を変更したからと言って、直ちに独禁法に違反するわけではありません。
しかし、取引を停止しなくても、その前に、①代金減額要請という方法があります。
代金減額要請が一定の範囲で認められていることは前回コラムでお話ししたとおりです。その際、免税事業者との間で真摯に協議することが肝要であることも、お話ししました。

私は、事業者が、免税事業者との間で真摯に協議したけれども、交渉が決裂し、免税事業者との取引を停止するというのであれば、やむを得ないと思います(私見)。

そうではなく、事業者が、たとえば金額的に独禁法違反となるような大幅な代金減額

(具体例は、前回コラム「インボイスは独禁法違反に要注意!!!①の「3」をお読みください。)

を要請し、これに応じない免税事業者との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあると考えます。


6 ⑥免税事業者に対し、登録事業者になるよう要請(強制)する。

 事業者が、免税事業者との取引による事務負担増などを厭い、免税事業者に対しいっそ登録事業者になってくれと要請することは、非常にありそうな話です。

  •  公正取引委員会のQ&A(前掲)
    によれば、要請を行うこと自体は独占禁止法上問題となるものではないとされています。

     ただし、容易に想像できることですが、この要請は、①代金減額要請や、⑤取引停止に結び付きやすいと思われますます。
  • 公正取引委員会のQ&A(前掲)
    も、登録事業者になるよう要請(強制)し、それに応じない場合には取引価格を引き下げるとか、取引を打ち切るなどと一方的に通告した場合には、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあるとしています。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
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