公取委はどのようにして調査開始するか

社会常識としての独占禁止法
執筆:弁護士  多田 幸生

  このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、公正取引委員会による調査の端緒、すなわち、公取委がどのようにして行政調査を開始するかについてお話しします。

1 調査の端緒

 公正取引委員会は、独占禁止法に違反する行為が行われている疑いがある場合に、事業者への立入検査、事情聴取などの調査を行い、違反事業者に排除措置命令、課徴金納付命令などの命令を下す役割を負っています。
 それでは、公正取引委員会は、いったいどのようにして、「独占禁止法に違反する行為が行われている疑い」(調査の端緒と言います。)を掴むのでしょうか?


2 職権探知

 公正取引委員会は、独自の調査により独禁法違反を発見することがあります。これを「職権探知」と言います。
 職権探知としての調査は、社会情勢を背景として行われることが少なくありません。
 たとえば、近時、原油価格の高騰により、「買い叩き(価格転嫁拒否)」という類型の独禁法違反(優越的地位の濫用)と下請法違反が増加していると言われます。

 このような社会情勢を背景に、令和4年2月、公正取引委員会は、「優越的地位乱用未然防止対策調査室」を新たに設置し、特に買いたたきが疑われる業種としてトラック運送、印刷、自動車・自動車部品などを指定して、現在、職権探知による調査を行っていると思われます。




3 一般からの報告(申告)

 独占禁止法に違反する事実があると思うときは、だれでも、公正取引委員会にその事実を報告し、適当な措置を採るよう求めることができます(独禁法45条1項)。
 違反行為の被害者でも一般消費者でも、違反行為を発見した人であればだれでもかまいません。実際には、独禁法違反行為により被害を受けている事業者(取引相手やライバル企業など)からの報告が多いと思われます。
 公取委からは、違反の疑いががある行為の具体的事実関係を記載した書面や、それを証明するための資料(文書の写し、写真、チラシなど)を求められるのが通例です。
公正取引委員会「申告」



4 自主申告(課徴金減免申請・リニエンシー)

 独禁法に違反した事業者が、社内調査により違反を発見し、公取委に対し自主申告することがあります。
 具体的には、独禁法違反を発見した事業者は、公取委に対し電話等により事前相談を行い、所定の報告書書式(様式第1号~第4号)により、事実を報告し、調査への協力を表明し、課徴金の減免を求めるという流れになります。



5 その他

 検察官(東京地検特捜部)の捜査や税務署の税務調査に付随して、独禁法違反が判明することがあります。
 中小企業庁の調査により独禁法違反が判明することもあります。その場合、中小企業庁は、中小企業庁設置法等に基づき、公正取引委員会に対して適当な措置を取るよう請求することになっています。
 直近では、令和3年10月、中小企業庁がユニットハウスの製造・販売・レンタル業者による下請法違反(下請代金の減額禁止違反)を発見し、公取委に対し措置を請求した例があります。

中小企業庁:2021年10月22日ニュースリリース



6 行政調査へ

 このように、公取委は様々な端緒により、独占禁止法に違反する行為が行われている疑いを掴み、立入検査や事情聴取などの行政調査を開始することになります。
 公取委の行政調査については、次回のコラムで具体的に解説したいと思います。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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