下請代金の支払方法に注意!まだ手形サイト120日ですか?

社会常識としての独占禁止法㉓
執筆:弁護士  多田 幸生

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は「下請法による手形取引の規制」について、お話しします。

1 下請法による手形取引の規制

下請取引の支払方法についてはさまざまな規制があり、手形取引についても、法律レベルの重い規制から、通達レベルの「お願い」まで、さまざまな規制があります。

通達レベルでは、「そもそも手形を使うな」と要請されています。
たとえば平成28年12月14日20161207中第1号・公取企第140号の通達には、「下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。」とあります。下請取引の決済はなるべく現金で行い、手形を使わないでください、という意味です。
通達による「お願い」にすぎませんので、法的強制力はありません。
下請法に手形決済を禁止する規定はありませんので、実務上、普通に手形決済がなされています。
たとえばバブル期と比べれば、手形取引の交換高は約50分の1にまで減少していますが、それでも2020年実績で年間134兆円の手形が交換されています。



2 支払サイトの長さの規制

法律レベルでは、手形の支払サイトの長さに法的規制があることを、どのくらいの方がご存知でしょうか。
発注者(親事業者)は、下請代金の支払日を実質的に遅らせるために、極端に長い支払サイトの手形を振り出すことがあります。下請事業者は長期間にわたり現金を受領できず、下請事業者が不利益を被ります。
そこで、 下請法4条2項2号は、「下請代金の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難」な手形を決済に用いることを禁止することにより、長すぎる手形サイトを規制しています。

では、下請法上、何日までの支払いサイトなら許されるのでしょうか。
昭和41年の通達「手形のサイト短縮について」以来、過去50年間にわたり、それは「繊維業については 90 日以内、その他の業種については 120 日以内」であると言われてきました。
手形をお使いの企業様は、お手元の手形をご覧ください。120日サイトのものが多いのではないでしょうか。
令和元年に実施された中小企業庁の調査によると、手形の支払いサイトは120日に集中しているそうです。これは、各社(繊維業以外)が、上記通達による上限「120日」を横並びで用いているということにほかなりません。

このたび、この手形サイトが変わります。
令和3年3月31日の中小企業庁・公取委連名の「手形通達」によれば、今後、手形サイトは次のように変更されます。

「3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
4 前記1から3までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。」

つまり、今はまだ大丈夫ですが、3年以内(令和6年3月31日まで)に、従来の「120日」という手形サイトを「60日」に改める必要があります。



3 割引料の規制

上記の手形通達では、割引料等のコストを下請事業者に負担させないよう要請されています。
具体的には、下請代金の決済を手形で行う場合は、あらかじめ、手形の割引料等のコストを下請事業者に示し、割引料等を加味して下請代金を決定する必要があります。


4 まとめ

以上3点、下請取引の決済に手形を用いる場合の法的な規制についてお話ししました。
手形は全体的に減少傾向にありますが、まだまだ重要な決済方法です。通達が変更されたこのタイミングで、自社の手形慣行に誤りがないか点検するのも良いと思われます。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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