独禁法違反と社名の公表

社会常識としての独占禁止法55
執筆:弁護士  多田 幸生

  

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は「独禁法違反と社名の公表」についてお話しします。 


1 13社の社名の公表

 昨今はインフレによるコストアップ(価格転嫁)が進んでいないことが社会問題となっています。
 そんな中、令和4年12月27日、公正取引委員会は、下請け企業などとの間で価格転嫁の協議が不十分だった13社の社名を公表しました。


2 独禁法に違反した場合の社名の公開

 独占禁止法に違反すると、事実上、社名は公開されます。
 公正取引委員会は、独禁法違反の事実を認定すれば、違反会社に対し、排除措置命令や課徴金納付命令を下します。
 これらはプレスリリースされますので、報道各社により一斉に報道されます。
公取委のHPには命令の原文が掲載されますので、誰でも閲覧可能です。

なお、独禁法違反事件の判決や審決は、いわゆる判例集に掲載されますが、社名までは掲載されないのが通例です。
(多くの場合、社名には仮名処理が施されています。)

よって、多くの独禁法違反事件では、摘発、排除措置命令、課徴金納付命令、判決といったタイミングで、公取委のプレスリリースや報道各社の報道により、一時的に社名が広まりますが、その後は時と共に沈静化していきます。

ただし、いわゆる判例百選に掲載されるような重要な事件の場合は、別です。
商法などビジネスローの界隈では、なぜかは分かりませんが、重要判例を会社名で呼ぶ慣習が存在します。
独禁法の場合、判例百選の掲載判例の9割以上の事件名に、会社名や団体名が使われています。
たとえば、表計算ソフトと他のソフトの抱き合わせ販売事件は「Mソフト事件」、高級アイスクリーム会社による再販売価格維持事件は「Hダッツ事件」となっています。
このように、重要判例の事件名に会社名を使われてしまった場合には、その後数十年の間、独禁法に違反した会社として、会社名が公表され続けることになってしまいます。


3 独禁法に違反していないのに社名を公表される場合

 令和4年12月27日に公取委が公表した13社は、しかしながら、独禁法違反を認定されたわけではありません。
公取委のプレスリリースには次のように書かれています。

「独占禁止法Q&Aに該当する行為を行っていたか否かを調査したものであり、この公表が独占禁止法又は下請法に違反すること又はそのおそれを認定したものではない。」

 とても難しい日本語ですね。
 独禁法違反どころか、独禁法違反「のおそれ」すら、認定していない、とのことです。

 でも、その理由は、なんとなくわかります。
 本件が、公取委主導の行政調査ではなく、内閣から下りて来た政策目的の調査だからでしょう。
 違反行為の摘発よりも、疑問行為(と社名)の公表を優先し、価格転嫁の促進という政策目的を実現しようとしているものと思われます。

 (なお、公取委の公表行為の根拠法は、独禁法43条「必要な事項の公表」と思われます。)

4 独禁法に違反していないのに社名を公表された場合の会社側の対応

 独禁法違反「のおそれ」すら認定していない、という公取委の言い回しを鵜呑みにすることはできません。

会社側としては、公取委は政策目的でそのような言い回しをしているだけであり、事実上は独禁法違反のおそれを指摘されたのと同じである、と理解して、対応を決めるべきでしょう。

 今回、各社の対応(プレスリリース)をHPなどでいくつか読んでみました。

多くの会社は、「指摘を受けたことは遺憾」「真摯に受け止め」「取引先に対し価格転嫁の協議を進めていく」といった方向性の言葉を使っていました。

 「法令違反には当たらないと理解している」と書く会社もありました。
間違いではありません。
しかし、言わずもがなであり、会社側から言うことではないようにも思われました。

 ある会社は「再発の防止に努めていく」という言葉を使っていました。
しかし、違反認定ではないのに「再発を防止」とまで書く必要があるのか、違和感を覚えました。

以上



コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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