食べログ判決が社会に与える影響について
社会常識としての独占禁止法㊺
執筆:弁護士 多田 幸生
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既報になりますが、令和4年6月16日、グルメサイト「食べログ」が基準を変更したことで評価点が下がり、売り上げが減少したとして、飲食チェーンKが損害賠償などを求めた訴訟の判決が、東京地方裁判所でありました。
東京地裁は、食べログが評価点を決める「アルゴリズム」(計算手法)を一方的に変更したことは、独占禁止法が禁じている「優越的地位の濫用(乱用)」に当たると判断し、韓流村の請求を認め、食べログ側に対して賠償金3840万円の支払いを命じました。
極めて重要な判決です。実務に与える影響は多大と考えます。
(関連報道)
- 日本経済新聞「『食べログ』に賠償命令東京地裁、ルール変更は『地位の乱用』」
- NHK「『食べログ』の運営会社に3800万円余の賠償命じる 東京地裁」
- 読売新聞「食べログ計算法は「ブラックボックス」…突然評価下がり客足が急減、憤る飲食店」
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まず検索アルゴリズムの実務に大きな影響があると思われます。
検索アルゴリズムは、グルメ情報サイトに限らず、数多の情報サイトにおいて用いられています。
これまでは、企業が自由に(勝手に)設定しており、たとえ恣意的な運用があったとしても、外部の第三者はそれを知ることができず、損害賠償請求などをすることは困難でした。
しかし、今回の訴訟で、裁判所は、食べログ側にアルゴリズムを開示させました。
そして判決では、食べログによるアルゴリズムの変更は優越的地位の濫用であったと認定し、損害賠償を命じました。
これまでブラックボックスと思われていた検索アルゴリズムが、裁判で開示され、独禁法違反になる可能性が示されたわけです。
今後、検索アルゴリズムの設計、運用には慎重を期する必要があり、特に検索アルゴリズムを「変更」する場合には厳格な手続を踏む必要があるでしょう。
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次に、この判決により、公正取引委員会は、IT技術を使った独禁法違反に対する新たな審査手法を獲得したと考えます。
公取委は、今回の食べログ訴訟に対しては、裁判所に意見書を提出するなど積極的に関与したと報道されています。
それに限らず、近時、公取委はIT業界全体に対し、独禁法違反の審査を強化する姿勢を明確に示しています。
(関連報道)
- 日本経済新聞「巨大ITの独禁法違反、審査初期から社名公表 公取委」
- 日本経済新聞「守秘の壁に悩んだ公取委 巨大IT調査、異例の強制宣言」
- 日本経済新聞「公正取引委員会、IT業界の摘発強化 多重下請けにメス」
「2」で述べたとおり、検索アルゴリズムは、グルメ情報サイトに限らず、数多の情報サイトにおいて用いられています。
今後、公取委が、情報サイトに対し、アルゴリズムの開示を求め、恣意的な運用による独禁法違反がないかを審査するようになることが、容易に想像できます。
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最後に、本訴訟で被告となった食べログは、掲載店舗数が約82万店、サイトの月間利用者数が8700万人超というメガサイトです。
そして、本判決で独禁法違反を認定されたアルゴリズム変更は、「チェーン店の評価点が非チェーン店の評価点よりも低くなるように抑える」変更だったと聞きます(※)。
(※ 当職はまだ判決文に接していませんので、報道に拠ります。)
そうだとすれば、そのアルゴリズム変更により不利益を被ったチェーン店は多数存在するはずなので、今後、同種同様の訴訟が相次ぎ、社会問題になる可能性もあるでしょう。
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今回の判決に対し、食べログ側が控訴したとの報道がされています。
控訴審(東京高等裁判所)がどのような判決を下すか、引き続き、目を離すことができません。