ノルマ販売・押し込み販売と独禁法

社会常識としての独占禁止法⑯
執筆:弁護士  多田 幸生

このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回はノルマ販売・押し込み販売についてお話しします。

令和元年9月、高級外国自動車メーカーA社は、ディーラー側に過大な新車販売ノルマを設け、達成できない場合は買い取らせていたという嫌疑(優越的地位の濫用(乱用))で、公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。

報道によると、A社は、ディーラーに対し過大な販売ノルマを設定し、目標を達成できない場合に新車を買い取らせたとのことです。
ディーラー側は、買い取った新車を「登録済み未使用車」と呼び、新車よりも値引きされた価格で販売することを強いられていたようです。

A社の行為は、いわゆる「押し込み販売」に当たります。押し込み販売は、どの会社も陥りがちな独禁法違反の類型の一つであり、摘発事例も非常に多く、注意が必要です。

たとえば販売店を使って自社製品を販売している会社は、販売店に対しノルマを課すことがあるでしょう。
ノルマを課しただけなら、押し込み販売ではありません。
しかし、ノルマを達成できず、売れ残った商品を販売店に買い取らせた場合には、押し込み販売として、独禁法に違反する可能性があります。
最初に販売店に一定数量の商品を買い取らせ、売れ残った商品の返品を認めないというやり方をした場合も、同様に、独禁法違反の可能性があります。

販売店を使っていない会社でも、押し込み販売は要注意です。
例えば、どのような会社でも、親密関係先に対し、ノルマの締め日間近に商品の購入を要請したり、誤って作りすぎた(仕入れすぎた)商品の購入を要請したりすることはあるでしょう。
そのような要請が、一律に、独禁法違反になるわけではありません。
しかし、自社が親密関係先に対し優位に立つ力関係がある場合には、押し込み販売として、独禁法に違反する可能性があります。

押し込み販売は独禁法違反(優越的地位の濫用(乱用))ですので、公正取引委員会から課徴金納付命令、排除措置命令等を受ける可能性があります。加えて、被害会社(上の例では、販売店や親密関係先など)から、無過失による損害賠償請求(独禁法24条)や、侵害行為の差止請求(同25条)を受ける可能性もあります。
のみならず、例えば、「押し込み販売により実体のない売上を計上した」と判断されれば、いわゆる「粉飾決算」として会社法違反、金商法違反、税法違反など別の法令違反の問題となり、刑事罰を受ける可能性もあります。

冒頭で述べたとおり、押し込み販売は違反・摘発例の非常に多い類型ですので、最大限の注意が必要です。
企業が遵守するべきビジネスルールとして、読者の皆様に認知していただきたく思い、ご紹介いたしました。

ところで、「優越的地位の濫用(乱用)」は、最近導入された「確約手続」の対象となります。
確約手続とは、言葉はわかりにくいですが、公正取引委員会に対し改善計画を提出して改善を確約し、その見返りとして、排除措置命令等の免除を受ける制度です。
最近、確約手続の利用が着実に広まり、普及しつつあると言われています。冒頭で挙げたA社も確約手続中であると報道されています。

そこで、次回のコラムでは確約手続について取り上げたいと思います。

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada
会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する
 

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