~支店や子会社による談合・カルテル~

社会常識としての独占禁止法㊲
執筆:弁護士  多田 幸生

 
 このコラムでは、かつてはマイナーな法律だった独占禁止法が、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している状況について、お話ししています。
 今回は、今年、摘発が相次いでいる「談合」を取り上げ、支店や子会社による独禁法違反にどのように対処するかについて述べます。

 

1 相次ぐ談合事件のニュース

 令和4年に入り、談合事件についての報道が相次いでいます。

 まず2月25日、群馬県内の官公庁が発注する警備業務の入札を巡り、警備大手の子会社を含む7社が談合を繰り返したとして、排除措置命令と課徴金納付命令(総額1480万円)が下されました。

 ついで3月3日、 日本年金機構が発注する「ねんきん定期便」の作成業務を巡り、印刷大手を含む26社が談合を繰り返したとして、排除措置命令と課徴金納付命令(総額17億4000万円)が下されました。

 新型コロナウイルス蔓延の状況下、一時的に停滞していた(ようにも見えた)公正取引委員会の活動が、再び活発化してきたように見えます。


2 談合とは

「談合」とは、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めて、競争をやめてしまうことです。

このような行為は、企業による不当な市場支配につながり、消費者及び国の利益を損ない、ひいては経済の健全な発展を阻害します。そこで、独占禁止法は談合行為を禁止しています。

刑事上は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。れっきとした犯罪です。


3 支店や子会社による独禁法違反にどのように対処するか

 たとえば、警備談合事件では、業界1位のA社の子会社(上信越地方)と、業界2位のB社の子会社(群馬県)が、談合行為を行っていました。

 A社とB社は、いずれも全国に名を知られた大企業(東証一部上場)です。社内には相応のコンプライアンス体制があったはずです。
 にもかかわらず、どうして「談合」が発生してしまったのでしょうか。

 ヒントは「群馬県」の「子会社」です。

 A社の子会社は、元は上信越地方の警備会社で、令和3年に子会社化したばかりでした。
 B社の子会社は、元は群馬県の警備会社で、平成29年にB社が完全子会社化したばかりでした。

 このような大手企業の地方子会社による談合・カルテル事件について、その原因を推測するならば、概ね次のようになるでしょう。

  • 買収前の地方子会社の経営者や営業担当者に、独禁法の意識がなかった。
  • 買収時の法務デューデリジェンスにおいて、談合が見逃された。
    ※A社については次項「4」もお読みください。
  • 買収後、親会社の法務・コンプラ部門による監督が、地方子会社に届いていなかった。

 これを防ぐための方策としては、例えば、

  • 地方子会社の社長以下の営業担当者に対し、親会社と同等の研修を課すなどして、独禁法意識を高める努力をする。
  • 親会社の法務・コンプラ部門の子会社に対する監督機能を強化する

といったことが必要だったのではないかと思われます。
(買収時の法務デューデリに問題があったとしても、これらによりリカバリー可能であったと思われます。)


4 A社が談合をやめていたことについて

 A社について、非常に興味深い事実があります。

 公取委が公表している決定書によると、実は、A社の上信越方面子会社は,遅くとも令和2年6月23日以降,談合に加わっていないと認定され、排除措置命令と課徴金納付命令を免れているのです。

 令和2年6月というのは、A社による子会社化の直前です。
 公表されている情報からはこれ以上のことはわかりません。
 しかし、もしかしたら、買収時の法務デューデリジェンスにおいて、この談合が発見され、A社から談合をやめるよう指導がなされていたのではないでしょうか?
 もしそうだとすれば、A社は非常に素晴らしいリスク管理を行ったと評価できます。

 私は、談合やカルテルは、適切な監査により発見可能だと思っています。
 M&Aにおいても、適切な監査(法務デューデリジェンス)により、買収先の独禁法違反を未然に発見・防止することが重要です。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

→→プロフィールを見る