社会常識としての独占禁止法③ ~談合~

このコラムでは、かつてはマイナーな法律だった独占禁止法が、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している状況について、お話ししています。
今回は、ビジネスマンが押さえておくべき単語として、「談合」を取り上げます。

「談合」とは、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めて、競争をやめてしまうことです。
刑事上は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。れっきとした犯罪です。

最近では、「リニア談合」事件が特に有名です。
リニア談合事件は、リニア中央新幹線事業について、大成建設、鹿島、大林組、清水建設という大手ゼネコン4社が結託し、各々が得意な分野の工事を受注できるように、入札額を調整していたという事件です。
大成建設の常務執行役員と鹿島建設の専任部長が逮捕され、現在、公判中です。令和2年6月4日の報道では、両名に対し懲役2年が求刑され、9月に結審・判決となることが予定されています。

https://www.sankei.com/affairs/news/200604/afr2006040012-n1.html
産経新聞「リニア談合、大成・鹿島に3億円求刑 東京地裁」

いったい、これほど著名な大企業の、常務執行役員や専任部長という高い地位にある人が、どうして「談合」に手を染めてしまうか、その原因を知らなければなりません。

『ゼネコン業界特有の法令軽視の企業風土』でしょうか?
それも一因かもしれませんが、断じてそれだけではありません。もっと本質的で、より普遍的な原因が、2つあります。

1つ目の原因は、「談合は、会社に利益をもたらす行為である」ということです。

談合すれば、談合しなかったときと比べて高い価格で落札することができます。
談合すれば、自分な得意な工事を受注し、自分が苦手な工事を見送ることができます。
談合知れば、どの工事を落札できるかを事前に知ることができ、経営が安定します。
このように、談合は、会社にとってはメリットだらけなのです。

「談合が会社に利益をもたらす行為であること」の帰結として、非常に残念な事実が生まれます。
それは「談合は、優秀な営業マンが引き起こす。」という事実です。

リニア談合で逮捕されたのが、「常務執行役員」や「専任部長」であったことを思い出してください。
東証一部の大企業で、それほどの高職に上り詰めた彼らが、過去、会社に莫大な利益をもたらしてきた優秀な営業マンであったことは、想像に難くありません。
会社に利益をもたらすことは、優秀な営業マンの本能のようなものです。彼らが、会社の利益のために談合行為に及ぶことは、ある種必然です。
優秀な営業マンは、入社以来、長きにわたり会社のために骨身を削って働き、会社に利益をもたらし続け、高職に上り詰めた後で、ついに、会社の利益のために談合に及ぶのです。

談合が発生する2つめの原因は、「談合がとても簡単に成立してしまう」ということです。

たとえば、業界団体の新年会で、たまたま、各社の担当者が遭遇したとします。
優秀な営業マンは、この遭遇を「チャンス」ととらえるでしょう。
世間話として、入札の話をします。お互いの会社が、どの工事を落札したいと思っているかが、うっすらと伝わります。この段階で、すでに「談合のタマゴ」ができています。
その後、他社の担当者と親密な人間を築きあげることは、優秀な営業マンにとっては朝飯前でしょう。
そうして、担当者同士が親密になっていけば、どこかのタイミングで、「談合」に至ります。ごく自然な流れで談合が成立するので、各社の担当者は、いったいどのタイミングで談合が成立したのか、わからないほどです。
談合を成立させるためには、わざわざ各社の担当者が談合会議を開いて密談する必要などありません。
たまたま担当者が遭遇し、人間関係が親密になれば、談合は成立するのです。

コンプライアンス(法令順守)の観点からは、談合は犯罪行為であり、企業に億単位の課徴金や罰金という不利益をもたらし、役員級の幹部の逮捕・懲役という事態を引き起こしますので、対策を講じる必要があります。
営業部門に対しては、研修などにより、営業マンの独禁法についての遵法意識を高めるとともに、「談合は会社に不利益をもたらす行為であり、その不利益は利益を上回る。」ということをよく理解させる必要があります。
営業マンは、これまでに独禁法教育など受けたことが一度もないでしょうから、ごく初歩的な内容であっても十分な効果があると思われます。

管理部門については、「優秀な営業マンが談合引き起こす」という事実や、談合が成立するメカニズムなどを踏まえ、独禁法違反や不正行為を未然に発見するための内部管理体制を構築する必要があります。
たとえば、リニア談合事件後、大林組が「同業者からのメールは内部監査部門が内容をチェックする。AIの活用も検討する。」という再発防止策を発表して話題になりました。
これは、「同業者との親密すぎる人間関係が談合につながる」という談合のメカニズムを踏まえた防止策と評価できます(ただし、そこまでする必要があるかについては異論もあるところです。)。
各々の会社の事情に応じ、個別具体的な内部管理体制を構築することが重要でしょう。

以上

 

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

 

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