~改めて、カルテルとは~

社会常識としての独占禁止法77

 

 このコラムでは、かつてはマイナーな法律だった独占禁止法が、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している状況について、お話ししています。
 今回は、最近摘発が相次いでいる「カルテル」を取り上げます。

 

1 2023年はカルテルの年だった

 独禁法界隈では、2023年はカルテルの年だったと言っても過言ではありません。
 史上最高額1000億円もの課徴金納付命令を下された電力カルテルを筆頭に、損害保険カルテル、鋼管継手カルテル、ガス容器カルテル、木工ドリルカルテルなど、摘発や立ち入り検査が相次ぎました。
 良い機会ですので、今一度、カルテルとは何かについて、見直しておきましょう。

2 カルテルとは

 「カルテル」とは、同一産業の企業同士が、互いの利益のために協議して,価格の維持や引き上げ、生産の制限、販路の制定などの協定を結ぶことをいいます。
 このような行為は、企業による不当な市場支配につながり、取引相手や消費者の利益を損ない、ひいては経済の健全な発展を阻害します。そこで、独占禁止法はカルテル行為を原則として禁止しています。
 刑事上は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。れっきとした犯罪です。 

 まれに「自分の会社は国や地方公共団体の入札をやっていないから、独占禁止法の問題はない。」と勘違いしていらっしゃる方がいますが、間違いです。
 談合とは異なり、カルテルは国などが実施する入札と関係がありません。「カルテル」は、入札の場面に限られず、およそ価格等をコントロールするすべての行為が規制の対象となります。 

3 カルテルの特徴① ~巨額の課徴金~

 改めて、電力カルテル事件の課徴金1000億円は空前絶後の高額でした。
 命令を受けた各社は、現在、課徴金納付命令の取消しを求めて訴訟中です。
 関係者は、事前にこの金額を予想できていたでしょうか?

<課徴金の大まかな計算方法>

  • まず違反行為の「実行期間」(10年を超えるときは直近10年に限定。)を確定し、
  • その実行期間中の「売上額」を確定し、
  • 違反会社に適用される「算定率」を確定し(カルテルは10%)、
  • 最後に、実行期間中の売上額に算定率を乗じる。


 課徴金の金額=①実行期間 × ②売上額 ×③算定率10%


 カルテルの算定率は10%と高いので、課徴金は高額になりがちです。
 例えば、ある製造業者が、年間売上200億円の製品について、5年間のカルテルを認定されてしまった場合、課徴金は100億円となります。

 課徴金の金額=200億円×5年間×10%=100億円


4 カルテルの特徴②:巨額の損害賠償事件

 「2」で述べたとおり、市場がカルテルにより支配され、商品の高値が不当に維持されてしまうと、取引相手や消費者は不当な高値での取引を強いられ、損害を被ります。
 不当な損害を被った取引相手や消費者は、カルテルの実行犯に対し、損害賠償請求訴訟を提起することがあります。
 この種の訴訟は、賠償額が高額になりがちであり、また、長期化しがちであるのが特徴です。

いわゆる電解コンデンサーカルテル事件が発覚したのは今から10年も前の2014年ですが、いまだに訴訟が続いています。
 2023年9月15日、日本ケミコンは、同社が抱えていた一連のカルテル訴訟のうち、アメリカでの訴訟がついに終結した、と発表しました。
 一連の訴訟により、同社はこれまでに合計500億円以上を取引相手に支払うことになったと報道されています。 しかし、台湾、デンマーク、イスラエルでの訴訟はまだ終わっていません。


日経2023年10月10日「日本ケミコン、24年3月期最終赤字205億円 訴訟関連損」

5 カルテルの特徴③:支店や子会社で起こりやすい

 全国に名を知られた大企業でさえ、カルテルを犯します。
 その傾向を見ると、カルテルの多くが、本社ではなく、支店や子会社において発生しています。
 大手企業の地方の支店同士、あるいは子会社同士が、価格カルテルを締結することが多いと言われています。
 このようなカルテルが発生してしまう原因は、

  1. 支店や子会社の営業(の責任者)に独禁法のコンプライアンス意識がない
  2. 本社のコンプライアンス部門による監督が、支店や子会社にまで届いていない


といったことが考えられます。これを防ぐための方策としては、

  • たとえば支店長研修などにより、地方営業所の責任者となるべき人材の独禁法意識を高める努力をする。
  • 本社のコンプライアンス部門の地方営業所に対する監督機能を強化する


といった方策が必要と思われます。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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