インボイスで独禁法に違反しないための総まとめ
社会常識としての独占禁止法70
このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は、令和5年10月1日から始まったインボイス制度で独禁法(優越的地位の濫用)に違反しないための方策についてお話しします。
1 インボイス制度対応を誤ると独禁法違反(優越的地位の濫用)になる
令和5年10月1日にインボイス制度が導入されました。
今後、企業は免税事業者(=適格請求書を発行できない)との取引分について、消費税納税時の控除ができなくなります。つまり企業の税負担が増えます。
そのため、企業が、フリーランスなどの免税事業者に対し、負担増分の値下げを一方的に求める事態がすでに頻発しています。
このような行為は、「優越的地位の濫用」に当たり、独禁法に違反する可能性があるため、公取委が注意喚起し、事例も公表しています。
2 企業がやっていいことと悪いことがある
独禁法との関係で、企業がやって良いこと、悪いことがあります。
ここで総まとめをしておきます。
- 取引先が課税登録しているかどうかの確認は、行ってもよい。
しかし、「回答しなければ取引を打ち切る/価格を引き下げる」などと述べてはならない。 - 取引先の免税事業者に対し、課税事業者に転換するよう求めても良い。
しかし、「課税事業者に転換しなければ)取引を打ち切る/価格を引き下げる」と述べてはならない。 - 取引先の免税事業者が、課税事業者に転換してくれる場合において、取引価格(取引先への支払金額)を据え置き(消費税分の増額をしない)で良いどうかは、ケースバイケースである。
多くの場合、もともと消費税相当額を支払っていたのではないかと思います。そのようなケースであれば、取引価格は据え置きでOK。
そうでなかった場合は、取引先との間で価格についての協議が必要である。 - 取引先の免税事業者が課税事業者に転換してくれない場合(免税事業者のままの場合)において、取引価格(取引先への支払金額)を減額を求めても良いかどうかも、ケースバイケースである。
もともと消費税相当額を支払っていたのであれば、減額を求めても良い。
ただし、減額に際し、取引先と良く協議をしなければならない。
特に、減額幅については、取引先とよく協議をして、免税事業者の仕入れにおける消費税負担を割り込まない範囲にとどめなければならない。
また、2023年10月から6年間のいわゆる「猶予期間」は、減額の幅は「経過措置」の範囲内にとどめなければならない。
たとえば、『一律に消費税分の10%を引き下げる』といった通知をしてはならない(公取委の公表事例)。 - 取引先の免税事業者が課税事業者に転換してくれず、④の減額協議もまとまらない場合には、その取引先との取引を辞めても良い。
ただし、取引を辞める前の段階において、企業側が④で挙げたような独禁法違反の通知をしていた場合などは、民事上の問題(損害賠償請求など)になる可能性がある。
3 要点・勘所
④の取引代金の減額や、⑤の取引打ち切りは、結論だけ読むと、「本当にそんなことが認められるの?」とギョッとする内容です。
この点については、インボイス制度の目的を理解しておくことが重要です。
インボイス制度は、「免税事業者の益税の解消」を目的の一つとしています。
すなわち、免税事業者は、取引先から消費税相当額を受領しながら、これを国庫に納めていません。これが「益税」です。
④の取引代金の減額は、減額幅がこの益税の金額より少額にとどまる限り、免税事業者にとって酷とは言えないから、許されるわけです。
⑤の取引の打ち切りは、「免税事業者が減額交渉に応じない」ということは、「免税事業者が、益税を満額享受し、消費税負担の一部分担にすら応じない」態度とイコールだから、許されるわけです。
このように、インボイス制度の目的を理解しておけば、独禁法との関係で対応を間違わずに済みます。
4 最後に
なるべく簡潔に、と思ったのですが、「2④取引価格を減額して良いか」については、どうしても文章が長くなりました。
インボイス対応では、どうしても、発注者側と受注者側の少なくとも一方の税負担が増えてしまいます。これを避けることはできません。
6年間は猶予期間がありますので、その間に、発注者側と受注者側とでよく協議して、どちらか一方に負担を全部負わせるのではなく、負担を分け合うこと(分担)を目指すのが良いと思われます。
(参考)
公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年3月8日改正版)
以上