公取委に目を付けられた電力業界 不当廉売にも要注意!
社会常識としての独占禁止法79
このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は、カルテルにより公取委から目を付けられた電力業界が、今度は「不当廉売」で責められているという話です。
1 公取委は電力業界をマークした
公取委は、独禁法違反の監視にあたり、特定の業界をマークすることがあります。
例えばガソリン業界は、先日お伝えしたように、通達「ガソリン等の流通における不当廉売、差別対価等への対応について」を発出するなどして、不当廉売についてマークされています。
今般、令和6年1月17日、公取委は「電力分野における実態調査報告書~卸分野について~」を発出し、電力業界における不当廉売を警告しました。
昨年来、電力業界はいわゆる電力カルテルにより公取委から厳しい追及を受けていましたが、どうやら、不当廉売についてもマークの対象になってしまったようです。
2 不当廉売とは
不当廉売については、以前にも取り上げました。
簡単に言うと、「不当廉売」とは、
「事業者は、極端に低い価格で、継続して商品や役務を提供してはならない。」
という独禁法上のルールです。
(正確な条文は、独占禁止法2条9項3号と一般指定6項をお読みください)
自由経済の下では、企業努力による価格競争、すなわち、良質・廉価な商品を提供して顧客を獲得しようとする競争は、むしろ促進されるべきです。本来、禁止されるような行為ではありません。
しかしながら、事業者の中には、価格競争の名のもとに、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得し、ライバル事業者(新規参入者など)を市場から追い出そうとする者がしばしばいます(公正競争阻害性)。
そこで、独禁法は、極端に低い価格で継続的に商品を販売する行為を「不当廉売」と呼び、これを禁止しています。
不当廉売は、公正取引委員会による排除措置命令の対象となり、重い不当廉売に対しては課徴金の納付が命じられます。
裁判所から差止めを受ける可能性もあります。
3 電力業界は実際にコストを下回る価格で電力を販売している
おそるおそる書きますが、どうやら、「電力業界は実際にコストを下回る価格で電力を販売している」ようです。
前掲「電力分野における実態調査報告書~卸分野について~」の59頁には、経産省の調査の結果、旧一般電気事業者(大手電力会社。旧一電。)のうち「10社中7社が令和5年度の小売価格が調達価格を下回っていた」と記載されています。
この現状を踏まえ、公取委は、同書の77頁において、
「新電力は旧一電(註:大手電力会社)と競争を維持することが困難となるおそれがある。」
ことを理由に、
「独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、不当廉売)。」
と結論付けています。
「2」で説明したとおり、普通、コストを下回る価格で販売し、新規参入者を阻害すれば「不当廉売」であり、摘発されます。
にもかかわらず、今回、公取委が電力業界を摘発せず、報告書で警告を発しただけで済ませた理由は、おそらく、電力会社が自由に値上げできない規制料金制度が採用されていることに配慮したものと思われます。
電気は非常に公共性が高い問題であり、電力会社は電気料金を自由に値上げできる立場ではないので、販売価格がコストを下回ってしまったからといって、「不当廉売」で一発アウトというわけにはいかないのだと思います。
省庁の構図の観点から見ると、こうです。
- 経産省は、電気料金の値上げを阻止したい(価格を下げたい)。
- 公取委は、電気料金の不当な安価を咎めたい(価格を上げたい)。
電力業界は、経産省からも公取委からも目を付けられて、不満、不本意でしょうが、元をただせば大規模カルテル事件でミソをつけてしまったからであり、当面、このような状況が続くでしょう。
個人的には、これまで、電力業界には自由競争が働いていなかったと思われるにもかかわらず、現在の卸価格がコストを下回っていた、という事実に非常に驚きました。
電力業界がカルテルに守られ、適切なコスト削減がなされていなかった可能性は、誰も否定できないと思います。
自由競争を回復することができれば、各社において適切なコスト削減が進み、電力価格を抑えたまま、不当廉売状態を解消できるのではないかと期待します。
以上