独禁法遵守規程とマニュアル作成のすすめ
社会常識としての独占禁止法64
このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
今回は、会社が独禁法を遵守するための施策として、独禁法遵守規程や独禁法遵守マニュアルを制定することの重要性について、お話しします。
1 九州電力がカルテル防止マニュアルを制定
令和5年4月27日、九州電力は、独占禁止法遵守規程に加え、談合・カルテル防止マニュアルを制定すると発表しました。
上記プレスリリース等によれば、
- 九電には「独占禁止法遵守規程」という社内規程が元々ありましたが、
- この規程に基づき、談合・カルテルを防止するために、談合・カルテル防止マニュアルを新たに制定した、
ということのようです。
このマニュアルは、従業員に対し、談合やカルテルに関する基礎知識を周知徹底する内容とされています。
また、従業員に対し、競争事業者との接触時の注意点や遵守事項(ルール)を定めていつようです。具体的には、従業員に対し、
- 「疑われる行為を行った場合や見聞きした場合は法務部門などへ申告する」ことを義務付け、
- もし、他の電気・都市ガス事業者(他社)と接触する場合には、事前に、「不適切な働きかけがあった場合の対応手順を明記したシート」を確認することを義務付けています。
なかなか厳しいルールであり、従業員の実務への影響が大きそうです。
2 独禁法遵守規程やマニュアルの有用性
昨今、企業には法令遵守が強く求められています。
特に独禁法は、様々な分野に規制を及ぼすための便利なツールとして重宝され、適用領域が日々拡大しています。課徴金は増額傾向にあり、それに伴う株主代表訴訟のリスクも高まっています。
こういったリスクを軽減するためには、会社の内外に対し、明確な行動基準を示すことが必要です。
独禁法についての社内規程やマニュアルを策定することは、そのための施策の1つです。
3 独禁法遵守規程とは
一般的に言えば、独占禁止法遵守規程は、独禁法を社内規則に落とし込んだものです、
もっとも、独禁法の条文の文言をそのまま社内規定にしたような規程には、あまり意味があるとは思われません。
実効性を高めるためには、各社が固有の独禁法リスクに着目し、それに対応する規程を定めることが重要です。
例えば、自社が、談合やカルテルを犯しがちなのか、それとも優越的地位濫用を犯しがちなのか、それによって、定めるべき内容は異なるはずです。
4 独禁法遵守マニュアルとは、
一般的に言えば、独禁法遵守マニュアルとは、従業員に対し、独禁法をかみ砕いて説明するとともに、取るべき行動の具体的な指針を示すものです。
従業員に独禁法を理解させ、独禁法の素養を高めるためのツールとして重要です。したがって、その内容は、独禁法遵守規程よりさらにわかりやすくする必要があります。効果を最大化するためには、ある程度分野を限定する必要があるかもしれません。
たとえば、九電のマニュアルは、正式名称は「不当な取引制限(カルテル・入札談合)防止マニュアル」です。「カルテル」と「入札談合」の2つに絞って、周知徹底を強化しているわけです。
従業員が取るべき具体的な行動指針(ルール)を示すことも重要です。
カルテルや談合を繰り返している会社の場合、厳しい営業ルールを定めざるを得ないでしょう。
具体的には、営業担当者が同業他社と接触する場合のルールを定めることになります。
営業員に対し、他社との接触前に独禁法上の遵守事項をまとめたシートを読ませるという九電のルールは、実務上参考になります。
以上
コラム 執筆 担当
顧問弁護士・講師 多田 幸生 Yukio Tada 会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。 |