オンライン販売を禁止できるか? ~ロレックスの場合~

社会常識としての独占禁止法88

 

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、ロレックスが155億円の課徴金を科されたというフランスの事件を題材に、オンライン販売禁止が独禁法に違反するか否かについてお話します。

 


1 ロレックス事件の概要

 2023年12月、フランスの競争委員会は、スイスの時計大手ロレックス(本社・ジュネーブ)に対し、正規代理店による時計のオンライン販売を10年にわたり禁止したことについて、9160万ユーロ(約153億円)の課徴金を科しました。

Swissinfo「仏競争委、ロレックスのオンライン販売禁止契約に課徴金150億円」

webChronos「ロレックスが約153億円の課徴金を命じられる! 自社時計のオンライン販売を禁じたことが原因」

 報道によりますと、ロレックスはこれまで、正規の実店舗でのみ新品の販売を行い、オンラインでは腕時計の紹介にとどめ、オンライン販売を行わないという世界的な方針を取っていました。正規ディーラーに対しても、オンラインで新品の腕時計を販売することを10年間にわたり制限していました。
 ある正規ディーラーが、ロレックスに対して時計のオンライン販売を許可するよう求めたところ、「時計の販売に関して、他のパートナーと足並みをそろえてもらうため」との理由で、正規ディーラー契約を解除されてしまったとのことで、フランスの競争委員会(日本の公正取引委員会に相当)に独禁法違反を申し立てました。
 競争委員会は、ロレックスの「偽造品や並行取引と闘う必要があるため、オンライン販売の禁止は正当」という反論を退け、独禁法違反を認定し、ロレックスに対し9160万ユーロ(約153億円)の課徴金を納付するよう命じました。


2 オンライン販売の禁止はいわゆる「拘束条件付き取引」に当たりうる

 筆者は日本の弁護士なので、以下は日本の独占禁止法についての記述になります。
 以前のコラムに書いたとおり、事業者が、取引相手の事業を「不当に」拘束する条件を付けて取引することは、独占禁止法により禁止されています(拘束条件付き取引)。

小売店(ディーラー)に対しオンライン販売を禁止することは、まさに、取引相手の事業を拘束する条件を付けて取引することに該当します。
 よって、独禁法が禁止する「拘束条件付き取引」に当たりえます。

3 「不当」な拘束条件だけが独禁法違反となる

 しかしながら、すべての拘束条件が独禁法により禁止されているわけではありません。
 メーカーや卸売業者の立場からすると、自己の商品の安全性・品質の確保、ブランド・イメージの保持等を目的として、小売業者に対し、商品の販売方法を具体的に指示(制限)したい場面が多々あります。
 たとえば、

  • 商品の販売に際して、使用方法などの説明を義務付ける、
  • チラシなどにおける価格の公告・表示方法を制限する、
  • 商品の品質の管理の条件を指示する、
  • 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示する、

といったことです。
 これらも「拘束条件」ではありますが、「不当」ではないので、独禁法違反にならないわけです。


4 ロレックスのオンライン販売禁止は「不当」か?

 では、オンライン販売禁止(対面販売の義務付け)は「不当」でしょうか?
 これは、一概に言うことができません。

 最高裁の判例からすると、「合理的な理由」があるか否かが分水嶺となります。
(最判平10・12・18。資生堂東京販売(富士喜)事件)

 わかりやすい実例を挙げますと、医療機器の通信販売を禁止したという事例について、公取委は、安全性確保等の合理的な理由があり、不当ではないので独禁法に違反しないとしています(平成23年度相談事例集1)

 ではロレックスのオンライン販売禁止に「合理的な理由」はあるでしょうか?

 ロレックスは、オンライン販売を禁止した理由は、「偽造品や並行取引と闘う」ためであると主張しました。要は、ブランド価値の保全が目的です。
 「中古高級時計市場の半分はロレックスの偽造品で占められている」という調査結果があるようなので、ロレックスの言い分もわからなくはありません。
 しかし、仏競争委員会は、ロレックスの競合他社がオンライン販売を禁止していないことを指摘し、偽造品・並行取引対策は「競争の制限がより緩やかな手段によって達成できる」と断じました。

 医療機器の「安全性」と比べると、ブランド価値の保全と言う目的は弱いと言わざるを得ません。
 仏競争委員会が言うようにより緩やかな手段でも目的を達成できるのだとすれば、日本法の判断枠組みでも、ロレックスのオンライン販売禁止に「合理的な理由」があったとは言いにくいかもしれません。

 2024年7月9日、筆者が確認したところ、オンラインでロレックスを販売している業者を容易に見つけることができました。
 詳しい報道がないので確たることは分かりませんが、もしかしたら、日本でもオンライン販売が解禁されたのかもしれません。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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