~中小企業による談合・カルテル~

社会常識としての独占禁止法87

 

 このコラムでは、かつてはマイナーな法律だった独占禁止法が、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している状況について、お話ししています。
 今回は、今年、摘発が相次いでいる「談合」を取り上げ、支店や子会社による独禁法違反にどのように対処するかについて述べます。

 


1 中小企業が談合・カルテルを犯す

 読者の中には、独禁法は高度なビジネス方だから、摘発されるのは主に大企業である、というイメージをお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。
 そんなことはありません。
 むしろ、件数としては、資本金1億円以下の中小企業による独禁法事件の方が多いと言ってよいでしょう。

 試しに、直近の談合事件2件について、について、摘発された各社の資本金を調べてみました。
 次のとおり、資本金1000万円~1億円以下の企業も多数摘発されていることが分かります。


<高知県地質調査談合(令和5年9月28日決定。課徴金8600万円)>

会社名資本金
㈱第一コンサルタンツ4500万円
㈱高建総合コンサルタント4000万円
興和技建㈱3000万円
木本工業㈱2500万円
㈱地研2500万円
㈱四国トライ2200万円
㈱相愛 ※2100万円
㈱種田工務2020万円
㈱ジオテク2000万円
長崎テクノ㈱2000万円
㈲ムクタ工業2000万円
㈲草苅地工2000万円
構営技術コンサルタント㈱1000万円

※事前自主申告(リニエンシー)により課徴金免除。


<名古屋市給食談合事件(令和6年5月23日決定。課徴金6億9000万円)>

会社名資本金
㈱魚国総本社2億9000万円
コンパスグループ・ジャパン㈱ ※1億0000円
日本ゼネラルフード㈱9600万円
メーキュー㈱5000万円
㈱ミツオ5000万円
㈱松浦商店5000万円
葉隠勇進㈱5000万円

※事前自主申告(リニエンシー)により課徴金免除。


2 中小企業はどのように談合・カルテルを防止するか

 中小企業が談合・カルテルを犯してしまう理由は、社内に誰も独禁法の素養のある人間がいないことにあると思われます。

 典型的な談合・カルテルは、自然発生的に発生してしまいます。
 例えば、業界の会合(新年会、業界団体の集会、なんでもよいです。)において、担当者が同業他社の営業担当者と交流を深めます。
 「原油高がキツいね」「元請けが値上げに応じてくれない」など、価格についての雑談に花が咲きます。
 これを重ねるうちに、ごく自然に、担当者間に、価格についての意思疎通が形成されていきます。
 気が付いたら、談合・カルテルとなっています。

 中小企業には法務部や監査部など、存在しません。
 なので、これが独禁法違反であると気づくことは、会社に独禁法の素養のある者が居なければ、難しいかもしれません。

 したがって、中小企業の談合・カルテル防止策としては、シンプルに、会社内の人材教育により、独禁法の素養を高めていくほかありません。




3 談合・カルテルが発覚した場合、中小企業はどのようにするべきか


 談合やカルテルは、歴とした刑事犯罪であり、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」に処されます(独禁法89条)。

 刑事罰とは別に、排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分を課されます。

 課徴金は巨額になることがあります。1社の史上最高額は707億円です(中国電力。令和5年3月30日決定。ただし係争中)。そこまで巨額でなくとも、たとえば1000万円でも、中小企業の経営を傾むかせるには十分な金額でしょう。


中小企業にとって最も恐れるべきは、入札資格停止処分かもしれません。

 中小企業では売上のほとんどを入札に頼っているということもあるでしょう。
 そのような会社が入札資格を停止された場合、たちどころに経営が立ち行かなくなります。
 中小企業は、公取委から立ち入り検査などを受けた場合には、可能な限りリスクを回避するために、弁護士に相談するべきでしょう。
 上にあげた「高知県地質調査談合」と「名古屋市給食談合」の表をもう一度ご覧ください。
 「※」をつけた会社は、リニエンシー(自主申告)を行ったことにより、課徴金納付命令を免れています。
 中小企業でも、適切に立ち回れば、リニエンシーをすることが可能です。

 リニエンシーした会社は、刑事責任も事実上回避できます。

 弁護士に相談し、リニエンシーを検討することが、会社を守るための最良の策と考えます。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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