食べログ、高裁で逆転勝訴

社会常識としての独占禁止法78

 

 いわゆる「食べログ事件」では、東京地裁が優越的地位濫用を認める判決を出して注目されていましたが、このたび高等裁判所が優越的地位濫用を認めない判決を出し、食べログが逆転勝訴しましたので、今回取り上げたいと思います。

 

1 (復習)食べログ事件とは

 平成31年5月に食べログが点数調整(採点アルゴリズムの変更)を行い、チェーン店に属する飲食店の点数を一律で引き下げたことによって、チェーン店の売り上げが減少し損害を受けたとして、チェーン店側が食べログ側に損害賠償などを求めた訴訟です。

 令和4年6月16日、東京地裁(原審)は、食べログが一方的に点数調整(アルゴリズムの変更)を行ったことは、独占禁止法が禁じている「優越的地位の濫用(乱用)」に当たると認定し、食べログ側に対して賠償金3840万円の支払いを命じました。

 このたび、令和6年1月19日、東京等高等裁判所(控訴審)は、この原審判決を取り消し、食べログの行為は「優越的地位の濫用(乱用)」には当たらないと認定して、原告の損害賠償請求を棄却しました。


2 アルゴリズム変更(評点の変更)に合理性があったか

 まだ判決文が公表されておらず、詳細は分かりませんが、報道によりますと、東京高裁は、食べログが行ったアルゴリズム変更(評点変更)には合理性があると認定したようです。

 大雑把に言うと、食べログが行ったアルゴリズム変更(評点変更)の内容は、同一屋号で同一運営主体の複数の店舗を「チェーン店」と判定し、そのチェーン店の一部を対象として、何らかの理由により評点を下げる変更をしたものです(原審判決文参照)。
 このアルゴリズム変更について、東京高裁は、「消費者の感覚とのずれを正すことや、不正な口コミの影響を取り除くことが目的で合理性がある。結果として評価が下がったとしても、店側への影響は限定的だ」と認定したようです(前掲日経記事)。

 この報道から推測するに、控訴審において、食べログ側は、チェーン店に関する消費者の感覚のずれや、不正口コミの影響について具体的な主張立証を行ったのだと思います。

 ただ、これだけでは、なぜ食べログが逆転勝訴できたのか、理由がよくわかりません。

 例えば、「チェーン店に関する消費者の感覚のずれ」を是正しようと思ったら、普通、評点を下げるのではなく、上げる方向に行くのではないか、と素朴には思います。
 実際に食べログが行ったのは、評点を下げる方向の変更だったわけで、なぜこの変更に合理性があると認定されたのか、興味があります。

 例えば、「不正口コミの影響」については、これを取り除くことはもちろん大事です。
 しかし、ことチェーン店について、不正口コミが多いという印象は、一般的にはあまりないと思います。
 もし、東京高裁が一般論ではなく具体論を述べているのだとしたら、なんだかきな臭いものを感じます。
 当該アルコリズムがどのように「不正口コミの影響」を除去するシステムだったのか、興味があります。

 いずれにせよ、東京高裁がアルゴリズム変更に合理性があると認定した時点で、当該アルゴリズム変更が優越的地位濫用に当たると処断される可能性はなかったと思います。

 非常に重要な判決ですので、全文公開が待たれます。要注目です。


3 その他の論点について

 食べログ事件では、アルゴリズム変更(評点変更)が独禁法の禁止行為「取引条件の差別的取り扱い」に該当するか否か、という論点もありました。
 当職が見た限り、この論点に触れた報道はありません。
 しかし、原告の請求が棄却されたという結果からすれば、東京高裁はおそらく「取引条件の差別的取り扱い」に該当しないとの認定をしたのだろうと思います。

 食べログは、逆転勝訴こそしていますが、そのために、企業秘密である評点のアルゴリズムを裁判所に開示せざるを得ませんでした。
 このことから、本訴訟の結論(勝敗)に係わらず、実務上、アルゴリズム変更に独禁法(優越的地位の濫用)が適用されうること、訴訟になれば具体的なアルゴリズムを開示せざるを得なくなること、の2点については、もはや確立されたと言っても過言ではないと思います。
 企業側は、今後、アルゴリズムを変更する際は、利用者に不利益を与えるような変更かどうかを検討しなければなりません。
 そして、不利益が予想される場合には、利用者への周知期間を置くなどの対応が、必要になるでしょう。


以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
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