排除措置命令案の事前通知を受けた企業はどのようにするべきか

社会常識としての独占禁止法85

 

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は、公取から排除措置命令案の事前通知を受けた企業はどのように対応するべきか、についてお話しします。

 

画像出典:公正取引委員会「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について(事業者等向け説明資料)」


1 排除措置命令案は事前に通知される

 独占禁止法違反事件では、公取委による行政調査(立ち入り検査、供述聴取、報告命令等)の後、排除措置命令が下されます。

 排除措置命令は、実際に発令される前に、あらかじめ、その命令案が会社に通知されます。
 命令案が通知された段階で、報道メディアが一斉に事件を報道します。
報道の仕方は、たとえば、「関係者によると、公正取引委員会はA社に対し独占禁止法違反の疑いで排除措置命令を出す方針を固めたことが分かった。」のような内容になります。

 報道の例。日経新聞2024年4月25日「公取委、薬品販売会社に排除措置命令へ J&Jは処分せず」


2 意見聴取手続

 冒頭に排除措置命令までの流れのイメージ図を示しましたので、ご覧ください。
 独禁法は、排除措置命令を下す場合には、これに先立ち、「意見聴取手続」を行わなければならないと定めています(独禁法49条)。
 意見聴取手続とは、排除措置命令の名宛人となる事業者が、独禁法違反の有無や処分内容について、実際に命令を受ける前に、公取委に対し意見を述べる手続です。

公正取引委員会は、意見聴取手続の実施のため、対象事業者に対し意見聴取手続についての通知書を発送します。一般に、次の事項が記載されています。

  1.  予定される排除措置命令の内容(事前通知)
  2.  公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用
  3.  意見聴取の期日及び場所
  4.  意見聴取に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地


3 会社が行うべきこと ~意見内容の検討~

 意見聴取手続通知を受けた事業者は、まずは代理人弁護士を選任するのが一般的でしょう(独禁法51条)。

 その後は、代理人弁護士とともに、証拠の閲覧・謄写(コピー)を行い(独禁法52条)、社内でも従業員等からヒヤリング調査を行ったうえで、会社としてどのように意見するべきかを検討することになります。

 「証拠」は元は社内資料ですが、公取委が、膨大な資料のなかからどれを「証拠」に選んで、「公正取引委員会の認定した事実」(前記2②)を認定したのかを確認します。

 認定された事実(独禁法違反の有無や内容)を争いたいのであれば、その旨意見を述べることになります。
 排除措置命令の内容が重い場合は、たとえ認定事実を争わない場合であっても、処分が重すぎる旨意見することになります。

 処分を甘んじて受ける場合であっても、事実認定に誤りがあるのであれば、会社として、必ず意見を述べるべきです。
 近時は株主代表訴訟が増えています。争うべき事実認定について、意見聴取の段階で争っておかないと、後日の株主代表訴訟において初めて争っても通用しないでしょう。

 会社としての意見がまとまったら、代理人弁護士が意見書を作成し、証拠を整えて、公取委に提出します。


4 意見聴取期日

意見聴取期日は、公取委の意見聴取官が主宰します。
 意見聴取官は、公取委の職員の中から、事件ごとに指定されます。公平のため、当該事件の審査に従事した者以外から選ばれることになっています。
 期日の冒頭、審査官等から、予定される命令の内容や公正取引委員会の認定した事実などについての説明がなされます。
会社側は、事前に用意した意見書や証拠を用いて、会社としての意見を陳述します。
期日後は、公取委が作成する「意見聴取書」「意見聴取報告書」を閲覧することができます(独禁法58条5項)。
 意見聴取期日は1回で終わることも多いですが、難しい事件では、2回目以降の期日(続行期日)が指定されることがあります。



5 排除措置命令後について(不服申し立て)


 公正取引委員会の委員は、意見聴取結果を参酌し、命令の内容を最終的に決定して、排除措置命令を下します。
 排除措置命令に不服がある場合は、行政事件訴訟法の定めるところによって、抗告訴訟(処分取消訴訟)を提起して、争うことができます。 
 抗告訴訟を提起できる期間(出訴期間)は、処分があったことを知った日から6カ月以内または処分の日から1年以内に制限されています(行訴法14条)。

 なお、排除措置命令が下されるのを待たず、その前に、排除措置命令の差し止めを求めるという方法も、検討に値します。
 近時、養殖ノリを巡る漁業協同組合の排除措置命令事件において、漁協側が排除措置命令の差し止めを求めて提訴した事件が注目されました。
 この事件は漁協側敗訴で終わったようですが、判決の内容によっては今後の差し止め訴訟の道が開ける可能性もあり、判決全文の公開が待たれます。

参考:公正取引委員会「公正取引委員会の意見聴取に関する規則」


以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
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