ステマの規制~景品表示法

社会常識としての独占禁止法84

 

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 今回は「ステマ」ことステルスマーケティングの規制についてお話しします。

 


1 ステマの規制が始まった

 令和5年10月1日から、ステルスマーケティング(ステマ)は景品表示法違反となりました。
 ステマとは、広告・宣伝であるにもかかわらず、広告・宣伝であることを隠すことを言います。主に「個人の感想を装う」という手法が用いられます。

 消費者は、「広告」とわかっていれば、企業によるある程度の誇張・誇大が含まれているものと考えることができ、そのことを含めて商品・サービスを選ぶことができます。
 しかしながら、一方で、「広告」とわからなければ、企業ではない第三者の感想であると誤って認識してしまい、その表示の内容をそのまま受けとってしまい、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選ぶことが出来なくなります。
 そのため、景品表示法は、広告であって、一般消費者が広告であることを分からないものを規制することになりました。

2 景品表示法は独禁法の特則

 あまり知られていませんが、景品表示法は独占禁止法の特則です。
 独禁法は、「実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させること」(一般指定8項。「ぎまん的顧客誘引」)を規制しています。
 景表法の表示規制は、この独禁法の規制をより効果的に規制し、公正競争を確保するために、昭和37年に制定されました。
 違反広告は行政処分(措置命令)の対象となり、従わなければ2年以下の懲役または300万円以下の罰金などが科されます。重い規制です。

公正取引委員会「第15章 不当景品類及び不当表示防止法 に関する業務」



3 ステマ規制の内容

 ステルスマーケティング(ステマ)は、景表法の「不当表示」として規制されます。
 具体的には、①事業者が自らの商品やサービスについてする広告などの表示、②一般消費者にとってそれが事業者による表示だと判別するのが難しいこと、の2つの要件を満たす広告が規制されます。
 判別が難しい広告には、「PR」「プロモーション」「商品提供を受けています」などといった広告を意味する文言を表示する必要があります。
 「PR」などの広告文言は、わかりやすく表示する必要があります。たとえば、ハッシュタグを長々と連ね、その中に「PR」というハッシュタグをまぎれさせることは、不適切行為となります。

 近年は、大手企業もインフルエンサーを使った広告活動を大々的に行ってると言われます。
 具体的には、「インフルエンサーに対価を渡して前向きな口コミ投稿を指示する」という手法による広告活動です。
 今回、インフルエンサ-を使う投稿も景表法の規制対象となりましたので、注意が必要です。

 過去にステマ広告を行っていた場合、これを放置することも不適切行為となりえます。
 そのステマ広告が現在も閲覧可能なのであれば、上で述べた広告文言を追加するか、さもなくば広告自体を削除しなければなりません。
 インフルエンサーなど第三者を使った過去のステマ広告については、容易に修正や削除ができず、難航することも予想されます。

 規制の対象者は、口コミ投稿をした個人ではなく、商品やサービスを提供している企業です。
 そのため、企業側では、自社がどんな手法で広告宣伝や販売促進などをしているのか、細かく洗い出すことが必要になります。

 規制が始まってから半年が経過しましたが、「ステマか口コミかの基準があいまいで分かりにくい」という声が聞かれます。
 例えば、「インフルエンサーに無償で少額の商品を配り、内容を指定せずに口コミを依頼することは、ステマに当たるか?」という質問に対しては、明確な答えを出すことはできません。
 そのインフルエンサーとの関係性(過去の取引)などにより、結論が変わる可能性があるからです。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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