「Windows」から「Teams」へ ~マイクロソフトと私的独占の歴史

社会常識としての独占禁止法83

 

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 先日、マイクロソフト社が、私的独占を回避するため、マイクロソフト365にTeamsを搭載するのを中止したとの報道がありました。そこで、今回ママイクロソフトと独占禁止法の歴史的な関係についてお話しします。

 


1 マイクロソフトの復活

 マイクロソフト社は、かつてパソコン用OSで市場を支配して隆盛を極めましたが、パソコンからスマートフォンへの変化の機を逃し、一時、衰退したと言われていました。
 そのマイクロソフト社が、近時、復活を遂げつつあります。
 OSを基幹事業とするのを止め、クラウドコンピューティングに事業の基軸を転換したのが奏功したと言われます。時価総額はグーグル(アルファベット社)を上回り、世界最大のアップル社に迫る勢いです。
 完全復活を遂げたマイクロソフト社は、かつての全盛期と同じように、「私的独占」の問題を抱え始めています。


2 1990年代のWindowsによる私的独占

1990年代、マイクロソフト社は米司法省から独禁法違反(私的独占)により訴えられ、一時は会社分割命令も出されました(最終的には和解)。
 当時問題になったのは、マイクロソフト社が、圧倒的なシェアを誇るパソコン用OS「Windows」を背景に、ワープロソフト「Word」や表計算ソフト「Excel」などの抱き合わせ販売をする、という手法でした。
 日本でも独禁法違反ではないかと問題になりました。以下の事件は、抱き合わせ販売による市場独占の参考例として、今でも公取委のHPに記載されています。(※)

【市場シェア】
X社:表計算ソフトの市場シェア第1位
Y社:ワープロソフトの市場シェア第1位

【行為】
 X社は,ワープロソフトの市場シェアを高めるために、パソコン製造販売業者に対し,X社の表計算ソフトとワープロソフトを併せてパソコン本体に搭載して出荷する契約を受け入れさせた。
 その結果、パソコン製造販売業者はX社の表計算ソフトとワープロソフトを併せて搭載したパソコンを発売するようになり、X社は、ワープロソフトの市場でもシェア第1位を占めるに至った。

※ 勧告審決平10・12・14。処分時の根拠法は不公正な取引方法(抱き合わせ販売)でしたが、公取委のHPには私的独占の参考例として記載されています。



3 Teamsの抱き合わせ販売は私的独占?

2020年代に入り、復活したマイクロソフト社は、かつてと同様に私的独占の批判を受けつつあります。
 業務ソフト「マイクロソフト365」に、会議アプリの「Teams(チームズ)」のセット販売を抱き合わせて販売しているのかではないか、という批判です。
 新型コロナウイルス感染拡大期に急速に普及したビジネスアプリは、チャットではスラック、ビデオ会議システムはズーム、グーグルミート、Webexなどが登場しました。
 マイクロソフト社も「Teams」を開発し、「マイクロソフト365」とセット販売していました。
 構図だけ見ると、「2」でご紹介したExcelとWordのセット販売と全く同じ構図です。
 昨年、米国スラックが抱き合わせ販売ではないかと抗議し、EUの欧州委員会が調査を開始しました。
 そうしたところ、令和6年4月1日、マイクロソフト社は、企業向けのマイクロソフト365からTeamsを分離する料金体系を発表しました。
 独占批判の先手を打った形です。

4 巨大IT企業の抱き合わせ販売は「排除型」私的独占につながる

 マイクロソフト社の今回発表に、1990年代の苦い経験が生かされていることは間違いないでしょう。
 しかし、同様の経験をしていないほかの巨大IT企業はどうでしょうか。批判を厭わず、私的独占へと突き進んでいた可能性がないとは言えません。
 私的独占とは「不当な手段によって市場を独占したり、独占状態を維持・強化してはならない。」というルールです。
 巨大IT企業が、圧倒的な市場シェアを背景に、新しいアプリやソフトウェアの抱き合わせ販売を行うことは、「排除型」の私的独占に該当し得ます。
 排除型私的独占は、課徴金が課されるだけでなく、「五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金」の刑罰があります。れっきとした犯罪行為です。
 近時、日本でも公取委が「排除型私的独占」をターゲットとする個別のガイドラインを定めるなど、監視の目が強まっています。


IT業界では、今も技術革新が進んでいます。今後は、クラウドやAIを軸に、ビジネスソフトを有機的に連携させる新サービスが生まれるのではないか、などと言われています。
 新サービスが生まれるところに「抱き合わせ販売」ありです。注視しなければなりません。


以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

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